検証マニュアル

Bearingsに付属のベアリング要素の有効性を検証します。

概要

2つの機械ベアリング(深溝ボールベアリング(DGBB)と円筒ローラーベアリング(CRB))を検証するために、個別のフルマルチボディダイナミクス(MBD)表現と低次元化モデル(ROM)の結果を比較します。

MBD表現では、正確なグラフィカル表現を使用して、両方の軸受リング(内側と外側)とそれぞれの転動体を剛体として定義されます。すべての転動体と2つの軸受リングのグラフィックス間の剛体接触が定義されます。ケージ(転動体を固定するもの)は、回転中の転動体の距離を一定に保つための運動拘束に置き換えられます。

一方、ROMでは、ベアリング力の計算に解析的定式化が使用されます。これは、一般力要素(Gforce)とMotionSolveサブルーチン(GFOSUB)を組み合わせて実装されます。ROMの詳細については、Bearingsをご参照ください。

検証では、それぞれのモデルアプローチが同じベアリングパラメータで使用されます。違いは、モデリング方法のみです。MBDモデル内の輪と転動体間の接触剛性は、ROMモデル内部の解析的定式化と同様に計算されます。ボールベアリング(点接触)の場合は、接触剛性がヘルツアプローチに従って計算されます。ローラーベアリング(線接触)の場合は、パルムグレン式に従って計算されます。接触領域での材料とオイル / グリースの減衰効果をシミュレートするために、剛性に比例する小減衰が導入されます。オイルの流し込みによる減衰効果は無視されます。ベアリングは、内輪上のシャフトと外輪上の土台に接続されます。

テスト対象

1つ目のテスト対象は、下の表に記載されたパラメータを取る標準の6005深溝ボールベアリングです。

表 1. DGBBパラメータ
DGBB 6005
パラメータ 単位
number_of_rollers 10 -
pitch_diameter 36.0 mm
width 12.0 mm
inner_diameter 25.0 mm
inner_shoulder_diameter 32.04 mm
inner_density 7.85e-6 Kg/mm^3
outer_diameter 47.0 mm
outer_shoulder_diameter 39.96 mm
outer_density 7.85e-6 Kg/mm^3
roller_diameter 6.746 mm
roller_density 7.85e-6 Kg/mm^3
bearing_clearance 10 μm
inner_race_conformity 0.52 -
outer_race_conformity 0.53 -

ROMモデルでは、下の表に示す追加のパラメータを定義する必要があります。

表 2.
NLCパラメータ(DGBB)
パラメータ 単位
young_modulus 210000 N/mm’^2
poisson_ratio 0.3 -
damping_force True -
friction_torque True -
damping_factor 0.1 -
static_load_rating 6.55e3 N
lubricant_viscosity 80 cSt
lubrication_method ‘grease’ -

MBDモデルでは、接触モデリング要素のすべての入力パラメータを定義する必要があります。概要で説明したように、剛性と減衰は理論的に計算され、下の表に示されます。ヘルツ点接触の指数は常に1.5です。パラメータ(na、nc、no)は、輪の三角形メッシュの忠実度を表します。ベアリング内のクリアランスが狭いために、現実的なベアリング結果を得るには、図形テッセレーションを非常に細かくする必要があります。

表 3.
Contactパラメータ(DGBB)
パラメータ 単位
use_contact_stiffness True -
damping_factor 2.5e-5 -
method.stiffness 730424.83 N/mm
method.exponent 1.5 -
method.damping 18.26 Ns/mm
method.dmax 0.013 mm
method.coulomb_friction “On” -
method.vd 110 mm/s
method.md 0.03 -
method.ms 0.05 -
method.vs 100 mm/s
na 2000 -
nc 80 -
no 2 --

2つ目のテスト対象は、下の表に記載されたパラメータを取る標準のNU 1005円筒ローラーベアリングです。

表 4. CRBパラメータ
CRB NU 1005
パラメータ 単位
number_of_rollers 12 -
pitch_diameter 36.0 mm
width 13.0 mm
inner_diameter 25.0 mm
inner_shoulder_diameter 30.5 mm
inner_density 7.85e-6 Kg/mm^3
outer_diameter 47.0 mm
outer_shoulder_diameter 38.8 mm
outer_density 7.85e-6 Kg/mm^3
roller_diameter 5.5 mm
roller_length 5.67 mm
roller_density 7.85e-6 Kg/mm^3
bearing_clearance 20 μm
effective_roller_length 5 mm

次の表に、ROMに必要な追加のパラメータを示します。

表 5.
ROMパラメータ(CRB)
パラメータ 単位
axial_constraint True -
damping_force True -
friction_torque True -
damping_factor 0.15 -
lubricant_viscosity 80 cSt
lubrication_method ‘grease’ -

MBDモデルでは、接触モデリング要素のすべての入力パラメータを定義する必要があります。概要で説明したように、剛性と減衰は理論的に計算され、下の表に示されます。パルムグレン定式化に使用される指数は10/9です。パラメータ(na、nc、no)は、輪の三角形メッシュの忠実度を表します。ベアリング内のクリアランスが狭いために、現実的なベアリング結果を得るには、図形テッセレーションを非常に細かくする必要があります。

表 6.
Contactパラメータ(CRB)
パラメータ 単位
axial_constraint True -
use_contact_stiffness True -
damping_factor 10e-3 -
method.stiffness 336980.92 N/mm
method.exponent 10/9 -
method.damping 3369.8 Ns/mm
method.dmax 0.013 mm
method.coulomb_friction “On” -
method.vd 110 mm/s
method.md 0.03 -
method.ms 0.05 -
method.vs 100 mm/s
na 2000 -
nc 80 -
no 10 --

おわかりのように、ここではDGBBと比較して少し高い減衰係数が選択されています。余分な減衰によって、線接触による数値ノイズが低減される可能性があります。

MBDモデルとROMの両方で、モデル内の軸方向剛性の欠如(内輪 / 外輪上のフランジの欠如)による軸方向変位を回避するためにaxial_constraintフラグが使用されます。

実験

ベアリングごとに3つずつの計6つの異なる実験について考察します。

DGBBの静荷重

1つ目の実験では、シャフトにかかる静的外力による内部ベアリングたわみまたは降伏を調査します。降伏は、外部荷重の増加に伴って非線形的に増加します。DGBBでは、下の図に示すように、外力が半径方向にも軸方向にも作用する内輪の中心にかかります。力の半径方向部分は局所ベアリング参照フレームのy方向に作用しますが、軸方向部分は常に半径方向部分の0.25倍で、z方向に作用します。



図 1.

下の図は、次数低減モデルとフルMBDモデル間でベアリング降伏を比較しています。



図 2.

両方のモデルが、特に、ベアリングの定格静荷重(6550N)までは静的に非常に似た動きをしています。ROMの方程式が定格静荷重までしか有効ではない実験データから抽出されるため、定格静荷重を超えると、結果が分かれます。これは想定内の結果です。なぜなら、実際のアプリケーションでは、ベアリングに定格静荷重を超える荷重がかかることはないためです。定格静荷重までは、相対誤差が4%未満で、最大誤差は低い力で測定されています。これは、ベアリングクリアランスによる不連続挙動が原因と想定されます。

CRBの場合の静荷重

CRBでは、荷重方向がベアリングに対して純粋に半径方向になるように、つまり、局所ベアリング参照フレームのy方向に選択されます。



図 3.

下の図は、低次元化モデルとフルMBDモデル間でベアリング降伏を比較しています。



図 4.

DGBBの例と同様に、最大誤差が、外部荷重の低い範囲(4%未満)で特定されます。また、2つのモデルは、定格静荷重を超えても非常によく相関しています。

DGBBとは対照的に、CRBでは、ベアリング降伏の傾きがほぼ線形です。これは、ベアリング間の接触現象に違いがあるためです。DGBBは楕円形の接触領域に広がる転動体と輪間の点接触を経験するのに対して、CRBは長方形に広がる線接触以上のものを経験します。ヘルツ接触法では、転接触と線接触の違いは、主に、接触指数(点接触の場合は3/2で、線接触の場合は10/9)で表現されます。

DGBBの動的応答

3つ目の実験では、振動する外部荷重によるDGBBの動的応答を調査します。ベアリング応答(最大降伏)は、通常、励起振動数がベアリングの共鳴振動数に達したときに増加します。この実験では、励起振動数が10Hzから6000Hzまでゆっくり変化する間に外部荷重の大きさが一定に保たれます。また、シャフトの回転は起きません。最大ベアリング降伏は全振動数範囲で測定されます。

注: DGBBの例では、外力の半径方向成分のみが振動し、軸方向部分は一定のままです。

下の図は、ROM表現とフルMBDモデル表現を使用したDGBBの振動数応答を示しています。



図 5.

ROMモデルとMBDモデルの両方が同様の振動数応答を示しています。臨界振動数挙動の2つの領域を特定できます。1つ目は824Hz(ROM)と949Hz(MBD)の間で、2つ目は3559Hz(ROM)と3925Hz(MBD)の間です。振動数については、ROMモデルとMBDモデル間の相対誤差は受け入れ可能な9~13%です。特に振動数が高い場合に、応答の大きさの差が大きくなります。応答の大きさは、主に、両方のモデルで実装が異なる減衰の影響を受けます。

下の図に示すように、純粋なラジアル荷重が適用された場合にのみより良好な結果が得られます。ここで、臨界振動数の範囲は3071HZ(MBD)から3193Hz(ROM)です。これが結果的に4%の相対誤差につながります。



図 6.

ベアリングの振動数応答は荷重がどのように適用されるかによって異なることに注意する必要があります。これは、主に、ベアリングの高い非線形特性が原因です。ROMモデルとフルMBDモデルの両方で、荷重の向きの変化による振動数応答の偏移を正確にキャプチャできます。

CRBの動的応答

次に、純粋な半径方向に振動する外力によるCRBの動的応答を下の図に示します。CRBの臨界振動数は、ROMモデルとMBDモデルの両方で約4000Hzです。両方のケースで大きさも同様です。



図 7.

DGBBの基本振動数

5つ目の実験では、DGBBの基本ベアリング振動数を調査します。この振動数は、転動体が荷重領域を通過したときに自然に発生します。外部荷重は1つ目の実験と同様に一定です。シャフトは286.5rpm(30rad/sec)の速度で回転します。DGBBの過渡挙動を内輪と外輪間の相対変位の形式で下の図に示します。



図 8. 変位応答におけるモデル比較 - DGBB

ROMモデルとフルMBDモデルの両方が、荷重領域を通過する転動体によって引き起こされる同じ振動数での振動を示します。ROMモデルには転動体パートは含まれていませんが、それらの理論上の移動が機械ベアリングの力サブルーチン内で計算されます。ここで、この計算を明確に検証します。

計算性能を調べれば、ROMの過渡解析の性能はフルMBDモデルより大幅に優れていることがわかります。

表 7.
シミュレーション時間の比較
Method シミュレーション時間(秒) シミュレーション時間(分)
ROM 1.513E+01 0.25
MBD 1.814E+03 30.23

CRBの基本振動数

最後の実験では、CRBの基本振動数を調査します。外部荷重は2つ目の実験と同様に一定で、シャフトは286.5rpm(30rad/sec)の速度で回転します。CRBの過渡挙動を内輪と外輪間の相対変位の形式で下の図に示します。DGBBの以前の実験と同様に、ベアリングは一定の振動数の振動を経験します。



図 9.

また、過渡解析の計算性能については、ROMは個別のフルMBDモデルより大幅に優れています。

表 8.
シミュレーション時間の比較
Method シミュレーション時間(秒) シミュレーション時間(分)
ROM 1.485E+01 0.25
MBD 5.852E+03 97.53

まとめ

MSolve APIからの低次元化ベアリングモデル(ROM)とフルマルチボディダイナミクス(MBD)ベアリングモデルの比較を行いました。比較は、まず、深溝ボールベアリング(DGBB)上で行ってから、円筒ローラーベアリング(CRB)上で行いました。検証の結果、ROMモデルと個別のMBDモデルの結果は同様であることがわかりました。また、ROMはフルMBDモデルよりはるかに高い計算性能を示しました。

MSolve APIにはさまざまなベアリングタイプ用のROMが含まれていますが、検証は2つのベアリングファミリ(ボールベアリングとローラーベアリング)に対してしか行われていません。他のベアリングタイプでも同じ理論原理が使用されるため、ここで示したものと同様の結果が期待されます。