ブレーキ鳴き解析

ブレーキシステムの騒音、振動およびハーシュネスの解析は、自動車産業の観点から極めて重要性の高い研究です。車両の快適性の重大な一面に、ブレーキシステムの静粛性があります。

低速の制動(ブレーキング)動作は、大きな騒音の発生を伴うことがあります。これらは、制動のパフォーマンスや安全性に影響を及ぼさないものの、騒音公害と顧客の不安の原因となります。これは、静粛なブレーキシステムの開発に向けた時間と費用の投資に結びつきます。ブレーキ騒音のソリューションは、静粛なブレーキシステム、品質保証に関する経費削減、また時には車両軽量化へ向けた開発さえも促進します。

ブレーキシステムから発生する騒音は、周波数スペクトルに基づき分類され、以下の主要カテゴリーに分けることができます:
  • ジャダー(がたつき):  ~10 Hz 車両は非常に低速
  • グローン(グー音):  ~100 Hz 車両は低速
  • モーン(うなり):  ~100 Hz 車両は中速
  • スキール(鳴き):  >1 kHz 車両は高速

ブレーキのアセンブリでは、これらの動的な不安定性は動摩擦によって引き起こされます。ジャダーはどちらかと言えば振動とハーシュネス、すなわちステアリングへと伝播されるブレーキとパッドの間の振動の問題であり、これは主としてブレーキとパッドの間の不均一な摩擦に起因します。これは、例えば一部の何らかの製造欠陥によって生じることもあります。別の不安定性は、近傍モードのカップリングであるモード融合(スキール)、もしくは負の摩擦速度勾配に起因する固着-すべりモーション(グローン / モーン)によって生じます。

これらの不安定性を検討する方法として、過渡解析とモーダル解析の2つがあります。前者はテストデータとの相関性に必要とされ、後者は前者が計算面で負荷が高いために優先されます。モーダル解析は、これらの不安定性がブレーキアセンブリ内に存在するか、したがって実際にモデル化される必要のある機構はブレーキとパッドの間の摩擦であるかどうかという見解をエンジニアに与えます。

2つの接触面間の摩擦係数vs.相対滑り速度の典型的なプロットを図 1に示します。スキールは比較的高速にて発生するため、一定の摩擦係数の使用でその予測に事足ります。
注: 滑り速度が大きくなると、カーブはフラットになります。


図 1. 摩擦係数vs.相対滑り速度(縮尺は誇張)

一方で、グローン / モーンの予測においては、図 1に示される負の摩擦-速度勾配を考慮する必要があります。制動(ブレーキング)動作は通常特定の車両速度(またはローター角速度)で起こります。着目すべきもう1つのモデリング問題は、図 1に示すとおり、OptiStructでは接触のアルゴリズムが滑り速度ではなくむしろ滑り距離に対して摩擦を制御する点です。したがって、現在の機能を使用している間は、グローン / モーンの低周波数現象を予測することは不可能であり、ローター回転速度ではなくローター回転を規定することによって、スキールの高周波数現象を予測することができます。このように、現時点ではディスクの回転速度は、OptiStructのブレーキ鳴きのソリューションシーケンスでは関連はありません。

SPCDは、ローターの定常回転を表現するのではなく、ブレーキ鳴きのローターの回転を表現します。ジャイロスコープ効果を無視し、動的摩擦が定数値である(速度に依存しない)限り、SPCDを用いた回転の規定は、回転速度の規定と同等です。重要な結果は、接触節点が動的摩擦モードにあることで、SPCDを用いてどれだけ速く、あるいはどれだけ大きくこれを動かすかは問題ではありません。これは、スキールのモデリングについてのケースで、摩擦を介したモードのカップリングに起因して比較的高速で発生し(グローンとは逆に)、ここでは、摩擦係数は速度に依存しません。

最後に、ブレーキシステムは回転する部品(より精確に言えばローター)を有するため、ローターダイナミクスをモデリングする必要があります。しかしながら、不安定性は低速度の制動動作と関係しており、動的摩擦によって生じるため、ローターダイナミクスを無視することは妥当な近似であり、不安定性の存在の予測に主として関連したモーダルアプローチは問題ないモデリング手法と考えられます。モーダル法を用いて不安定性が特定され、テストデータの予測に過渡アプローチが使用される際、現象の物理的性質を捕捉するため、モデルには勿論ローターダイナミクスの影響が含まれる必要があります。

OptiStructでは、最初の着目点はモデルのスキールです。上記の情報に基づき、これは、準-静的プロセス、2ステップのソリューションとして設定、検討することができます:
  • 適用荷重下のブレーキアセンブリの静的平衡を得るための非線形静的ソリューションディスクとパッドの間の接触は、N2SまたはS2S接触を用いてモデル化このサブケースでは、圧力荷重はパッドをディスクに固定します。続いて、ある角度単位でディスクをパッドに対して回転させるSPCD荷重が適用されます。この値は、収束したギャップ接触が滑り摩擦状態にあり、一方で問題がしかも小変位領域内にあるよう選択される必要があります。
  • さらに、複素固有値解析を介した複素固有値の抽出に続きます。初期非線形静解析サブケースはここではSTATSUB(BRAKE)を用いて参照されます。

非線形静解析の間、規定の回転により、ディスクとパッドの間の接触は、ソリューションの収束の際に動的摩擦状態にあることを確実にしなければなりません。複素固有値解析は、システムマトリックスを、最終的な剛性マトリックスの対称バージョンのモードによって決定されるサブスペースに投影することで実行されます。動的(滑り)摩擦の影響のために剛性マトリックスは非対称であるため、当初は不安定なモードが発生します。

この機能開発の前には、OptiStructのブレーキ鳴き解析の機能は、K2PP(または同等のもの)を用いて外部ソースから複素固有値ソルバーへの非対称摩擦マトリックスのインポートを必要としていました。OptiStructでのブレーキ鳴きソリューションシーケンスの開発によりこのステップが除かれ、単一のシームレスな実行でソリューションが与えられるようになります(以前の手法の詳細については、複素固有値解析の用途セクションをご参照ください)。

インプリメンテーション

最初の非線形サブケースから、3つの重要な結果、すなわち幾何剛性マトリックス( K G )、および2つの収束したギャップ剛性マトリックス - 完全ギャップマトリックス( K G a p )および垂直剛性項のみを含んだギャップマトリックス( K G a p s y m )が与えられます。前者は接線方向の摩擦の項を含むため非対称である一方、後者は対称バージョンで、モードサブ空間を包含するために使用されます。 K G は、ブレーキの圧力荷重からの幾何剛性を考慮します。

モーダル複素固有値解析サブケースは、初期非線形サブケースをブレーキ荷重として参照します(STATSUB(BRAKE)エントリを使用)。システムの元の質量を M 、減衰マトリックスを C 、剛性マトリックスを K とします。

このサブケースの最初のステップは、システムのモード( A )および固有値( λ を元の質量マトリックスを用い、剛性は以下の数式に従って求めることです:(1) K m o d = K + K g e o m + K g a p s y m
システムの全体状態についての情報を含んだ剛性マトリックスは:(2) K s y s = K + K g e o m + K g a p
システムマトリックスのモーダル投影は次のように与えられます:(3) A T MA=I (4) A T BA (5) A T K sys A=λ+ A T ( K gap K gapsym )A

このシステムについての固有値解析から、システムの安定性の情報が得られます。固有値は、 ω d ( i g / 2 ) のフォームで、これより、減衰された周波数および等価な減衰値が得られます。正の実部または負の減衰を含んだ固有値は、不安定性を示します

入力 / 出力

入力

以下の情報は、ブレーキ鳴き解析でユーザーによって入力されることが求められます:
  1. 規定の回転(SPCD)を含んだブレーキ荷重(Pressure)を表す初期の非線形静解析サブケース。
  2. STATSUB(BRAKE)を介して初期の非線形静解析サブケースを参照する後続の複素固有値解析サブケース。
入力デックの例
SUBCASE 1
LABEL nonlinear_static_brake_loads
ANALYSIS NLSTAT
SPC = 1
LOAD = 4
NLPARM = 1

SUBCASE 2
LABEL complex_eigenvalue
ANALYSIS MCEIG
SPC = 1
METHOD(STRUCTURE) = 2
CMETHOD = 3
STATSUB(BRAKE) = 1

出力

ブレーキ鳴き解析から得られる重要な結果は、ピストン荷重による接触圧力と、統合されたシステムについての固有値解析結果です。それらの結果に基づき、最初の負の固有値の後の正の固有値が不安定モードです。


図 2. 8番目のモードが不安定モード