S-N(応力 - 寿命)法を用いた疲労解析

OptiStructは疲労寿命の計算にS-Nアプローチを用います。S-Nアプローチは高サイクルの疲労に適しており、その材料の周期的な応力の大部分は弾性範囲に収まっています。このような応力範囲内では、構造物は通常は1000サイクル以上存続するはずです。

S-Nアプローチは、弾性的な周期荷重で、S-N曲線は 1000 サイクル以上の数の範囲にあるはずとの推定に基づいています。このことは大きな塑性は起こらない、ということを保証します。これは一般に高サイクル疲労と言われます。

rd2070_SN_curve
図 1. S-N 曲線の低サイクルと高サイクルの領域

S-N理論は単軸応力を扱うため、それぞれの計算点、それぞれの時間ステップにおける応力成分は1つの統合された値にする必要があり、そこで、等価な公称応力が用いられ、S-N 曲線に適用されます。

OptiStructではさまざまな応力の組み合わせタイプが利用可能で、デフォルトは “Absolute maximum principal stress (絶対値最大主応力)”です。一般的に脆性材料には "Absolute maximum principle stress"が推奨されますが、延性材料には"Signed von Mises stress"が推奨されます。符号付きパラメータの符号には最大絶対値主値の符号が用いられます。

rd2070_fatique_flowchart
図 2. 疲労解析のフローチャート
疲労定義の3つの見地は、材料の疲労特性、疲労パラメータと荷重の順序(sequence)とイベント(event)の定義です。
  • 疲労材料特性(S-N曲線)

    rd2070_2segment_SN_curve
    図 3. 2セグメントのS-N曲線
    FATDEF
    要素と関連する疲労解析に用いられる疲労特性の定義。
    PFAT
    表面仕上げ、表面処理、解析に用いる面、要素の疲労強度低下係数の定義。
    MATFAT
    疲労解析の為の材料特性の定義。これらの特性は、材料のS-N曲線から得られます(図 3)。そのS-N曲線は、多くは鏡面加工された試験体の完全反転の曲げ試験から得られます。S-N曲線は1セグメントか2セグメントとなります。
  • 疲労パラメータ

    rd2070_mean_stress_corr
    図 4. 平均応力補正
    FATPARM
    疲労解析のパラメータの定義。これには応力の組み合わせ方法、平均応力修正法(図 4)、レインフローパラメータ、 応力の単位が含まれます。
  • 疲労の順序(sequence)とイベント(event)の定義

    rd2070_load_time_history
    図 5. 荷重時刻歴
    FATSEQ
    疲労解析での荷重の順序の定義。このカードは他のFATSEQカードやFATEVNTカードを参照することができます。
    FATEVNT
    疲労解析の荷重のイベントを定義します。
    FATLOAD
    疲労荷重パラメータを定義します。

    本チュートリアルの実行には、optistruct.zipに含まれる下記のファイル群が必要です。モデルファイルへのアクセスをご参照ください。

    ctrlarm.femload1.csvload2.csv

本チュートリアルでは、図 1に示すような、ブレーキ力と鉛直力を受けるコントロールアームが用いられます。2つの荷重の時刻歴は、1 Hzで 2545秒間図 2に示すように得られており、これが使われます。コントロールアームに用いられる材料のSN曲線を図 4に示します。亀裂は常に表面から始まるため、 表皮のシェルメッシュがソリッド要素を覆って置かれています。これにより、計算精度も良くなります。

rd2070a_control_arm
図 6. 疲労解析に用いるコントロールアームモデル

rd2070a_load_time
図 7. 鉛直力の荷重時刻歴

rd2070a_vertical_force
図 8. ブレーキ力の荷重時刻歴

rd2070a_sn_curve
図 9. SN曲線

本チュートリアルに使用されるモデルは、図 1に示すようなコントロールアームのモデルです。荷重と拘束条件、および2つの静的荷重ケースは、このモデルに既に定義されています。

HyperMeshの起動とOptiStructユーザープロファイルの設定

  1. HyperMeshを起動します。
    User Profilesダイアログが現れます。
  2. OptiStructを選択し、OKをクリックします。
    これで、ユーザープロファイルが読み込まれます。ユーザープロファイルには、適切なテンプレート、マクロメニュー、インポートリーダーが含まれており、OptiStructモデルの生成に関連したもののみにHyperMeshの機能を絞っています。

モデルの読み込み

  1. File > Import > Solver Deckをクリックします。
    Importタブがタブメニューに追加されます。
  2. File typeにOptiStructを選択します。
  3. Filesアイコンfiles_panelを選択します。
    Select OptiStruct Fileブラウザが開きます。
  4. 自身の作業ディレクトリに保存したctrlarm.femファイルを選択します。モデルファイルへのアクセスをご参照ください。
  5. Openをクリックします。
  6. Import、続いてCloseをクリックし、Importタブを閉じます。

モデルのセットアップ

TABFAT荷重コレクターの定義

荷重順序の定義の最初のステップはTABFATカードの定義です。このカードは荷重履歴を示します。
  1. Viewメニュー内のUtilityメニューが選択されていることを確認します。View > Browsers > HyperMesh > Utilityをクリックします。
  2. ブラウザのModel タブの横にあるUtilityメニューをクリックします。ToolsセクションでTABLE Createをクリックします。
  3. OptionsをImport tableに設定します。
  4. TablesをTABFATに設定します。
  5. Nextをクリックします。
  6. 荷重ファイルをブラウズします。
  7. Open the XY data Fileダイアログボックスで、Files of type filterをCSV (*.csv)に設定します。
  8. optistruct.zipファイルから自身の作業ディレクトリに保存したload1.csvファイルを開きます。
  9. Nameにtable1を指定して新規テーブルを作成します。
  10. Applyをクリックし、テーブルを保存します。
    TABFATカードイメージの荷重コレクターtable1が生成されます。
  11. 2番目の荷重ファイルload2.csvをブラウズします。
  12. Nameにtable2を指定して新規テーブルを作成します。
  13. Applyをクリックし、テーブルを保存します。
    TABFATカードイメージの荷重コレクターtable2が生成されます。
  14. CancelでImport TABFATウィンドウを終了します。
    Modelブラウザ内のLoad Collectorの下にテーブルが現れます。
    注: DACフォーマットのファイルはHyperGraphで簡単に読み込むことが可能で、HyperMeshで読めるCSVフォーマットに変換できます。

TABLOAD 荷重コレクターの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Collectorを選択します。
  2. NameにFATLOAD1と入力します。
  3. Colorをクリックし、カラーパレットから色を選択します。
  4. Card Imageに、ドロップダウンメニューからFATLOADを選択します。
  5. TID(テーブルID)に、荷重コレクターのリストからtable1を選択します。
  6. LCID(荷重ケースID)に、荷重ステップのリストからSUBCASE1を選択します。
  7. LDM(荷重の大きさ)を1に設定します。
  8. Scaleを3.0にセットします。
  9. もう1つの荷重コレクターFATLOAD2についても、FATLOADカードイメージでtable2SUBCASE2を指定して、同じプロセスを繰り返します。
  10. LDMに1、Scaleに3.0をセットします。

TABEVNT荷重コレクターの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Collectorを選択します。
  2. NameにFATEVENTと入力します。
  3. Card Imageに、FATEVNTを選択します。
  4. FATEVNT_NUM_FLOADを2に設定します。
  5. Data欄の横のTableアイコンtable_pencilをクリックし、ポップアップウィンドウでFLOAD(1)にFATLOAD1を、FLOAD(2)にFATLOAD2を選択します。

TABSEQ荷重コレクターの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Collectorを選択します。
  2. NameにFATSEQと入力します。
  3. Card Imageに、FATSEQを選択します。
  4. FID(疲労イベント定義)に、荷重コレクターのリストからFATEVENTを選択します。
    疲労解析のためのイベントのシーケンスの定義が完了しました。次に疲労パラメータが定義されます。

疲労パラメータの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Collectorを選択します。
  2. Nameにfatparamと入力します。
  3. Card Imageに、FATPARMを選択します。
  4. TYPEがSNに設定されていることを確認します。
  5. STRESS COMBINEをSGVON (Signed von Mises)に設定します。
  6. STRESS CORRECTIONをGERBERに設定します。
  7. STRESSUをMPA (Stress Units)に設定します。
  8. RAINFLOW RTYPEをLOADに設定します。
  9. CERTNTY SURVCERTを0.5に設定します。

疲労材料特性の定義

疲労解析の材料カーブは MAT1 カードで定義できます。

  1. Modelブラウザで、材料Aluminumをクリックします。
    エンティティエディターが開きます。
  2. エンティティエディターで、SNをMATFATに設定します。
  3. UTS(ultimate tensile stress: 引っ張り強さ)を600に設定します。
  4. SN curveに以下を設定します(これらの値は材料のSN曲線より得られます)。
    SRI1
    1420.58
    B1
    -0.076
    NC1
    5.0e8
    SE
    0.1

PFAT荷重コレクターの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Collectorを選択します。
  2. Nameにpfatと入力します。
  3. Card Imageに、PFATを選択します。
  4. LAYER を TOPに設定します。
  5. FINISHをNONEに設定します。
  6. TRTMENTをNONEに設定します。

FATDEF荷重コレクターの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Collectorを選択します。
  2. Nameにfatdefと入力します。
  3. Card Imageには、FATDEFを選択します。
  4. PSHELLの横のボックスにチェックを入れます。
  5. Data欄の横のtable_pencilをクリックし、ポップアップウィンドウからshellをPID(1)に、pfatをPFATID(1) に選択します。
  6. Closeをクリックします。

疲労荷重ステップの定義

  1. Modelブラウザ内で右クリックし、Create > Load Stepを選択します。
  2. NameにFatigueと入力します。
  3. Analysis typeをfatigueに設定します。
  4. FATDEFにfatdefを選択します。
  5. FATPARMにfatparamを選択します。
  6. FATSEQにfatseqを選択します。

ジョブのサブミット

  1. AnalysisページからOptiStructパネルをクリックします。

    OS_1000_13_17
    図 10. OptiStructパネルへのアクセス
  2. save asをクリックします。
  3. Save Asダイアログで、OptiStructモデルファイルを書き出す場所を指定し、ファイル名としてctrlarm_hmと入力します。
    OptiStruct入力ファイルには、拡張子 .femが推奨されます。
  4. Saveをクリックします。
    入力ファイル欄には、Save Asダイアログで指定されたファイル名と場所が表示されます。
  5. export optionsのトグルをallにセットします。
  6. run optionsのトグルをanalysisにセットします。
  7. memory optionsのトグルはmemory defaultにセットします。
  8. OptiStructをクリックし、OptiStructジョブを開始します。
ジョブが成功した場合、ctrlarm_hm.femが書き出されたディレクトリに新しい結果ファイルがあるはずです。何らかのエラーがある場合、ctrlarm_hm.outファイルはデバッグを手助けするエラーメッセージを探すのに良い場所です。

結果の確認

  1. 解析プロセスが終了したら、をクリックして、結果を読み込みます。
  2. Resultsタブで、サブケースフィールドからSubcase 3 (Fatigue) を選択します。
  3. ResultsツールバーでresultsContour-16をクリックし、Contour panelを開きます。
  4. Result typeをDamageにセットし、Applyをクリックして要素コンターを表示させます。

    rd2070a_results
    図 11. 要素ダメージの結果