ストリーマー基準

絶縁破壊

絶縁破壊は、誘電気体に印加した電位差がその絶縁破壊電圧より高い場合に発生することがあります。この現象は、デバイスを最終的に破壊しかねない、誘電領域での電気アークの出現として見ることができます。

絶縁破壊が関わる用途として、ガス絶縁型開閉器、空気絶縁型開閉器、空気雰囲気に置いたケーブル、ブッシング、コンデンサバンクなどが考えられます。

放電の発生に至る物理過程すべての全面的なシミュレーションはきわめて複雑です(ボルツマン方程式やドリフト拡散モデルなど)。その複雑さと計算に要する時間の長さのために、実際の産業用デバイスで絶縁破壊電圧値の特定に応用することは、今のところできません。

ストリーマー基準は、気体の絶縁破壊過程を全面的にシミュレーションすることを目的としているわけではなく、静電シミュレーションによって得られる電界(放電現象が発生する前の背景電界)に適用する基準にすぎません*。

気体中の電気破壊に至る電子なだれ過程のトリガーとなるしきい値電圧を、この基準から推定できます。この電圧は“ストリーマー開始電圧”と呼ばれています。

注: *参考文献:A. Pedersen、T. Christen、A. Blaszczyk、H. Boehme、2009年、“Streamer inception and propagation models for designing air insulated power devices”、Proceedings IEE Conference on electrical insulation and dielectric phenomena

ストリーマー

ストリーマーは、全面的な破壊の直前に発生する現象です。イオン化した導電性経路が誘電気体中に出現して拡散します。まず、最初の電子が電界によって加速され、その周囲の気体分子や気体原子をイオン化するうえで十分なエネルギーを得てそれらと衝突し、イオン化を引き起こします。このイオン化によって新しい電子が生成されると、それらが再び電界によって加速され、新しいイオン化経路を形成します。これが、連鎖反応と見なすことができる電子なだれ過程です。

ストリーマー基準: 数学的モデル

ストリーマー基準の原理は、2つの電気接点間で、絶縁破壊の発生確率が最も高い経路上で対象気体が示す実効電離係数(alpha_eff)の積分に基づきます。これらの接点にさまざまな電位の電圧を印加します(多くの場合、一方の接点を接地した状態で他方の接点に高電圧を印加します)。

実効電離係数aeffは、実験値曲線とのフィッティングで得られる数式(通常は多項式関数)で定義します。したがって、この曲線は、実験での条件の範囲およびフィッティングに選択した規定電界の範囲でのみ有効です。つまり、同じ気体にこのような数式が複数存在します。実際のデバイスに適した式を選択する必要があります。

この基準は、式で求めることができます。

ここで:

αeff: 気体の実効電離係数

x: 臨界経路上の座標

K: イオン化量。Kの一般的な値は18です。

ストリーマー基準:経路の重要性

絶縁破壊が発生する可能性が最も高い経路の定義は、基準の適用に大きく影響することから、慎重に決定する必要があります。

一般的に、このような経路は、いずれかの接点の高電界領域から始まり、そこからの力線をたどります。絶縁破壊の可能性が最も高い代替経路も存在します。

ストリーマー基準:電界分布

誘電媒質中の電界分布に応じて、次の2つの積分計算の設定があります:

  • 均一電界:すべての経路上でαeffを積分することによってKを計算します。
  • αeffが0の状態に相当する電界強度しきい値(空気の場合は2.6kV/mm)を下回るまで減少する不均一電界:αeff0になるまでαeffを積分することによってKを計算します。高電位導体付近における正のαeffの積分値が、低電位導体付近における正のαeffの積分値より小さくなることがあります。その場合は、2番目の積分が考慮され、ストリーマーが低電位導体側で始まる可能性が高くなります。

不均一電界の例:

ストリーマー基準:二分法

電界と電位との法則が線形であることから、Kがしきい値に等しくなるまで電界に二分法を適用します。これにより、対象とする経路上でのストリーマー開始電圧を特定できます。

ストリーマー基準: 制限

ストリーマー基準からは、気体中で電子なだれ過程が始まるうえで必要な電圧(ストリーマー開始電圧)の推定値のみが得られます。この値を使用して、DCまたはAC(ほぼ静的)での絶縁破壊電圧を推定できますが、その結果の正確さが全面的に保証されているわけではありません。その理由は、放電の物理過程が全面的にはシミュレーションされていないこと、特定の物理条件下で有効なイオン化曲線が多数提唱されていること、接点表面の粗さなどの詳細な要因がシミュレーションで考慮されていないこと、経路の定義が結果に大きく影響することにあります。

また、インパルス電圧試験(多くの場合は雷インパルス試験)にはストリーマー基準を直接適用できないことはよく知られています。このような条件では、経験に基づいて結果を補正する必要があるからです。

この新しいFlux機能を使用する際は、誘電体ジオメトリの最適化で効果的な指標的ツールとして基準結果を使用することが推奨されます。ただし、最終的な検証では、得られた結果を必ず実際の実験データと比較する必要があります。

参考文献

特に、Fluxで使用される数学モデル(AirSF6)の物理的側面に関する詳細情報については、次の参考文献をご参照ください:

W.S.Zaengl and K. Petcharaks, “Application of Streamer breakdown criterion for inhomogeneous fields in dry air and SF6”, Swiss Federal Institute of Technology (Zürich)