多軸疲労解析
周期荷重を受ける構造の寿命(荷重サイクル数)を予測する多軸疲労解析が、S-N(応力-寿命)、E-N (ひずみ-寿命)、およびDang Van基準(安全係数)アプローチを用いてHyperLifeで実行できます。
単軸疲労解析では、HyperLifeはユーザー定義の組み合わされた応力の手法(フォンミーゼス、最大主応力など)を使って応力テンソルをスカラー値に変換します。多軸疲労解析では、HyperLifeは応力テンソルを直接使って損傷を計算します。次のセクションで説明される多軸疲労解析理論は、応力が平面応力状態にあるという仮定に基づきます。すなわち、HyperLifeでの多軸疲労解析では、構造の自由表面のみが着目されます。ソリッド要素については、シェルスキンFEA内と同様に使用されます。
応力-寿命法は、構造の応力レベルがほとんど弾性範囲に収まる際の疲労寿命予測に機能します。このような繰り返し荷重条件の下では、構造は一般的に多数の荷重サイクルに耐えることができ、これは高サイクル疲労として知られています。繰り返しによるひずみが塑性範囲まで延びた場合、構造の疲労耐久性は著しく低下し、これは低サイクル疲労として特性づけられます。高サイクルと低サイクル疲労の間の一般的に受け入れられている境界点はおよそ10,000荷重サイクルぐらいになります。低サイクル疲労では、ひずみ-寿命 (E-N) 法が適用され、塑性ひずみがダメージ計算の重要な因子として考慮されます。
コンポーネントが荷重履歴全体の中で破壊されるかどうかについては、Dang Van基準を使用して予測されます。この場合、破壊に至る最小限の疲労サイクルを指定する従来の疲労結果は適用できません。コンポーネントの疲労履歴全体で疲労損傷が発生するかどうかを考慮する必要があります。損傷が発生した場合、コンポーネントは無限の寿命になることはありません。
単軸荷重
比例二軸荷重
非比例二軸荷重を有するモデルでは、主応力は非比例的に変化するか、方向が変わる、あるいはその両方となります。一般的に、応力成分の非同相荷重は、非比例多軸荷重として知られています。
非比例多軸荷重
HyperLife多軸疲労解析では、非比例多軸荷重がで考慮されます。
非比例周期荷重および非比例硬化
多軸疲労解析で使用される塑性モデルは、適用される荷重が非比例であれば、非比例硬化を受けます。
臨界面アプローチ
臨界面として知られる特定の面上で亀裂が生じ成長することが、実験で示されています。臨界面アプローチは、損傷の物理的な性質をその損傷の評価プロセスで捕捉します。これは、臨界面の応力とひずみを扱います。
HyperLifeは、の値10度毎に、最も損傷の大きい面を検索します。HyperLifeは各面上で、引張り亀裂損傷モデルとせん断亀裂損傷モデルを使って損傷を評価します。検索の最後にHyperLifeは、最も損傷の大きい面(臨界面)における損傷をレポートします。
応力-寿命(S-N)アプローチ
多軸疲労解析の応力-寿命アプローチは、単軸疲労解析のものと同様です。多軸疲労解析における応力-寿命アプローチの初歩的な情報については、単軸疲労解析のS-Nカーブおよびサイクルカウントの項をご参照ください。
平均応力補正
材料、応力の状態、環境およびひずみ振幅に応じて、疲労寿命は通常、せん断面または引張り面いずれかに沿った微小亀裂成長によって支配されます。臨界平均応力補正法には、両方のタイプの亀裂成長を支配する支配的パラメータを含んでいます。せん断支配か引張り支配かという異なる破壊モードにより、いかなる単一の平均応力補正法もすべての材料についてすべての寿命型において実験データと相関を期待することはできません。多軸疲労寿命の推定に使用するための最良な手法にコンセンサスは未だ見つかりません。複数の手法が利用可能で、HyperLife多軸疲労解析で同時に使用することができます。応力に基づいた平均応力補正法としては、引っ張り亀裂にはGoodmanモデルが、せん断亀裂にはFindleyモデルが用いられます。平均応力補正法は、Multiaxial Fatigueダイアログで定義することができます。複数のモデルが定義されている場合、HyperLifeは入手可能なすべての損傷値から、最大の損傷を導くモデルを選択します。
Goodmanモデル
単軸疲労解析におけるGoodmanモデルは、臨界面で引張り亀裂成長によって生じる損傷を評価します。
Findleyモデル
定数は、2つ以上の応力状態を含んだ疲労試験を実行することによって実験的に決定されます。延性材料については通常、は0.2から0.3の間で変化します。HyperLifeでのデフォルト値は0.3です。
FKM
FKM平均応力補正は、単軸および多軸両方のS-N疲労に使用できます。詳細については、ユーザーズガイド.平均応力補正の単軸疲労解析、S-Nアプローチをご参照ください。
ひずみ-寿命(E-N)アプローチ
付与される荷重は非比例多軸周期荷重であると考えられるため、HyperLifeはJiang-Sehitoglu塑性モデルを使って全ひずみと弾塑性応力を計算します。
降伏関数
表記は偏差応力テンソルに使用されます。は逆応力テンソル、はシンプルなせん断の降伏応力です。
流動則
硬化則
このモデルには、4つの材料パラメータ、、、があります。これらの定数はすべて、材料の周期応力ひずみ曲線(Equation 13)から計算されます。この曲線にはシンプルなべき関数がフィッティングされ、3つの材料プロパティである周期強度係数、周期ひずみ硬化指数、弾性係数が得られます。
せん断降伏強度は、塑性ひずみを0.0002 ( 0.02% )に設定し、で割ることによって得られます。とはいずれも、一連の材料の周期応力ひずみ曲線を選択し、曲線の形状を描写することにより得られます。Ratcheting率はによってコントロールされ、これは、固定値5でセットされます。コンポーネント数()は10にセットされます。
非比例硬化
非比例硬化は、主ひずみ軸が周期荷重の間に回転する荷重パスを表すために使用される語です。最もシンプルな例は、引張りおよびねじり荷重の周期が変化するバーです。引張り周期とねじり周期の間で、主軸は45度回転します。フェーズ外荷重は非比例荷重の特別なケースで、正弦波または三角波と荷重間のフェーズの差異を含む周期荷重履歴を示すために使用されます。この主の荷重タイプの間、材料は、単軸またはあらゆる比例荷重パスでは見られない追加の周期硬化を示します。
ユーザーは、coefkp90とcoefnp90を入力する必要があります。coefkp90のデフォルトの値は1.2です。coefnp90のデフォルトの値は1.0です。
硬化の割合は、定数によってコントロールされます。着目すべきは疲労計算の安定したソリューションであるため、数値的安定性を求めて= 5が選択されます。ここでは、任意の荷重パスかで応力とひずみを解くためにはこれらの式で十分です。ソリューションはこれらの式をインクリメンタルに解くことによって進み、これは、応力またはひずみコントロールのいずれかで解かれます。開始時の応力と逆応力が初期条件です。材料定数はすべて、それらの初期値で始まり、各荷重増分後に更新されます。
ノッチ補正
ノイバーの規則などの単軸荷重の近似ソリューションは、塑性変形中の応力とひずみの計算に用いられます。残念なことに、ノイバー則は6つの未知数に対し式が5つしかないため、多軸荷重には直接拡張することができません。この問題を克服するために、Koettgen 3は、局所弾塑性応力とひずみを得るために、構造上の降伏曲面を提案しています。"降伏曲面"を定義し、標準周期塑性法を用いて、ノッチでの未知の応力とひずみを求めることができます。材料メモリ効果は、標準周期塑性計算に直接組み込まれます。この手法は、下に示す1つのように、単軸疲労解析で用いられる解析的または実験的公称応力-ノッチひずみ曲線における概念と同じものに基づいています。
ここで定数およびは、材料ではなく構造の挙動を表します。単軸のノイバー則は、定数、およびを構築するために使用されます。
- 単軸のノイバー則を適用して、および を取得(Equation 22)。
- 疑似定数およびを含んだ疑似応力コントロールでJiang-Sehitoglu塑性モデルを実行し、疑似応力-局所ひずみ応答を取得。これで、全ひずみが利用可能となります。
(24) - 材料定数およびを含んだひずみコントロールでJiang-Sehitoglu塑性モデルを実行し、局所ひずみ-局所応力応答を取得。最終的に、応力も利用可能となります。
(25)
平均応力補正
材料、応力の状態、環境およびひずみ振幅に応じて、疲労寿命は通常、せん断面または引張り面いずれかに沿った微小亀裂成長によって支配されます。
臨界面モデルには、両方のタイプの亀裂成長を支配する支配的パラメータを含んでいます。せん断支配か引張り支配かという異なる破壊モードにより、いかなる単一の平均応力補正モデルもすべての材料についてすべての寿命型において実験データと相関を期待することはできません。多軸疲労寿命の推定に使用するための最良な平均応力補正モデルにコンセンサスは未だ見つかりません。HyperLifeでは、多軸疲労解析に複数のモデルが使用されます。ひずみベースの平均応力補正モデルについては、引張り亀裂成長用の1つのモデルSmith-Watson-Topper、および、せん断亀裂成長用の2つのモデルFatemi-SocieとBrown-Miller、が用意されています。損傷モデルは、Fatigue Moduleダイアログから定義することができます。複数のモデルが定義されている場合、HyperLifeは入手可能なすべての損傷値から、最大の損傷を導くモデルを選択します。
Smith-Watson-Topperモデル
このモデルの応力項により、最大荷重中の平均応力および非比例硬化効果の記述が適切になっています。
Fatemi-Socieモデル
最大応力の影響を表す意図で考案された、6つの引張り-ねじり荷重履歴を含んだ試験が実施されました。周期法線ひずみも、6つの荷重履歴について一定です。試験の結果として、最大せん断ひずみ振幅、等価応力およびひずみ振幅と塑性仕事はほぼ同じでした。荷重履歴間の主な差異は、最大せん断ひずみの面全域での法線応力です。
荷重履歴および法線応力は、図内の各亀裂成長カーブの上に示されています。最大応力が大きいほど、成長速度は速く、疲労寿命は短くなります。最大応力は、亀裂の発生にはあまり影響しませんが、亀裂の発生をこの材料の小粒の大きさである10mmのオーダーで定義した場合、その影響は大きくなります。
法線応力に対する材料の感度は、値に反映されます。ここで、は、HyperLifeでは0.002の有意な全ひずみが使用される応力です。複数の応力状態からの試験データが利用できない場合は、 = 0.3。このモデルは、引張り荷重とねじり荷重との差を説明するだけでなく、平均応力および非比例硬化の影響を表すために使用することができます。ひずみの項のみを含む臨界面モデルは、硬化に由来する平均応力またはひずみ経路の影響を反映できません。
Brown-Millerモデル
Morrow
Morrowの式は、低い塑性ひずみでは平均応力の影響が顕著で、高い塑性ひずみでは小さいという考察に一致しています。
法線ひずみ振幅の影響
ここで、
せん断亀裂成長モードには、Fatemi-SocieモデルかMiller-Brownモデルを選択します。SWTモデルは引張り亀裂成長に常に使用されます。Morrow法も使用が可能です。
SWTモデルの損傷は、最大主応力面で計算されます。
同様に、Brown-MillerモデルとFindleyモデルの損傷はそれぞれ、最大せん断ひずみ面と最大せん断応力面で計算されます。
参考文献
Dang Van基準(安全係数)
コンポーネントが荷重履歴全体の中で破壊されるかどうかの予測に使用されます。特定の物理システムでは、コンポーネントが無限に長持ちすることを要求される場合があります。
たとえば、高い回転速度で多軸周期荷重に耐えている自動車のコンポーネント(プロペラシャフトなど)は、短期間の実働寿命で高サイクルの疲労限界に到達します。この場合、破壊に至る最小限の疲労サイクルを指定する従来の疲労結果は適用できません。疲労損傷量を定量化する必要はなく、コンポーネントの疲労履歴全体で疲労損傷が発生するかどうかのみを考慮する必要があります。損傷が発生する場合、そのコンポーネントが無限の寿命になることはできません。Dang Van基準に基づく疲労解析は、このために設計されています。
通常、疲労による亀裂は、幾何的な不連続部分、フィレット、切欠などの応力集中ゾーンから始まります。この現象は微小なレベル、すなわち、結晶内での局所的な塑性変形状態にある複数の分子のような特定の領域で発生します。Dang Vanアプローチは、明確な安定状態で微小な変数を使用して、疲労の基準を公準化します。損傷が発生しない場合、これは弾力的な調整状態になります。この基準の主原則は、疲労サイクルの通常の特性化は局所的な載荷パスに置き換えられるので、損傷を受けている荷重を区別できるということです。
- 異なる時点で位置ごとに、巨視的な応力を評価します。
- 巨視的な応力を、静水圧部分と偏差部分に分割します。
- 次の式に基づいて、微視的な静止残差応力を計算します:
(41) この式はに関して最小化され、に関して最大化されます。
- 微小な応力の偏差部分を計算します。
(42) - 安全係数(FOS)を計算します:
(43) (44) ここで、とは材料定数です。
FOSが1より小さい場合、コンポーネントが無限の寿命になることはできません。
HyperLife安全係数(FOS)の設定
- FOS ツールを疲労モジュールから選択します。
- FOS解析に必要なねじりの疲労限界と流体応力感度の値は、Assign Material モジュールで割り当てることができます。
- 荷重時刻歴を割り当て、評価に進みます。