修正版Bertottiモデル同定ツール

概要

本書では、Fluxで使用可能な修正版Bertottiモデル同定ツールについて説明します。このツールは、Microsoft Excelファイルとしてユーザーに提供され、鉄損測定を通じて、測定セットに最も適したそのモデルの係数および指数を決定します。これらのパラメータの同定は、Fluxでの鉄損計算のためのBertottiモデルを含む材料の作成に必要となります。

次に挙げる内容を以降の各項で取り上げています:
  • Fluxインストールディレクトリで修正版Bertottiモデル同定ツールを見つける方法
  • Fluxで鉄損を計算するための修正版Bertottiモデルの留意事項
  • この同定ツールで実装されているデータフィッティング手法についての簡単な説明
  • この同定ツールの使用方法

この同定ツールの場所

このBertottiモデル同定ツールは、次のパスにあります:

INSTALLATION_FOLDER\Flux\DocExamples\Tools\BertottiLossesCoefficients

ここで、INSTALLATION_FOLDERは、ご使用のシステムのFluxインストールディレクトリを表します。

修正版Bertottiモデル同定ツールを実行するには、この場所にあるBertottiLossesCoefficients.xlsというファイルをMicrosoft Excellで開きます。

修正版Bertottiモデル

Fluxに実装される修正版Bertottiモデルは、鉄損を、以下の方程式に従って、ヒステリシス損、従来の渦電流損失、超過損失の3つのパートに分離します。

d P = k 1   B m a x α 1   f + k 2   ( B m a x   f ) α 2 + k 3   ( B m a x   f ) α 3  

Fluxでは上記の式を使用して、AC steady stateアプリケーションで電力密度を評価します。この式で:

  • dPは、単位体積あたりの総鉄損(W/m3
  • k1は、ヒステリシス損係数
  • k2は、従来のフーコー損失係数
  • k3は、超過損失係数
  • α1 は、ヒステリシス損指数
  • α2は、従来のフーコー損失指数
  • α3は、超過(補助)損失指数
  • fは、周波数(Hz)
  • Bmaxは、電気的1周期における最大の磁束密度(T)です。

入力データ

表 1 電気鋼の供給元が提供する鉄損測定値の例が含まれます。このような測定は、通常、エプスタインフレームで、材料に正弦波磁束密度を印加することにより実行されます。

表 1. 複数の磁束密度値についてさまざまな周波数で測定された固有鉄損
Bmax (T) 50Hzでの損失(W/kg) 100Hzでの損失(W/kg) 200Hzでの損失(W/kg) 2500Hzでの損失(W/kg)
0.1 0.05 0.04 0.08 3.89
0.2 0.06 0.14 0.32 14.3
0.3 0.11 0.30 0.73 29.6
0.4 0.20 0.49 1.21 50.2
0.5 0.23 0.71 1.78 76.7
0.6 0.38 0.97 2.44 110
0.7 0.50 1.25 3.19 153
0.8 0.62 1.57 4.03 205
0.9 0.77 1.92 4.97 270
1.0 0.92 2.31 6.01 349
1.1 1.10 2.75 7.19  
1.2 1.31 3.26 8.54  
1.3 1.56 3.88 10.1  
1.4 1.92 4.67 12.2  
1.5 2.25 5.54 14.4  
1.6 2.53      
1.7 2.75      
1.8 2.94      

同定ツールで必要とされる入力データのフォーマットは、表 1に似ています。これは、3つの値(BmaxLf)のリストで構成され、材料内のピーク磁束密度Bmax(T単位)を固有鉄損L(W/kg単位)と周波数f(Hz単位)の両方に関連付けます。ユーザーは、材料の密度あるいは比質量ρ(kg/m3単位)を指定することも必要です。

同定ツールの目的は、入力データに最も適した指数(α1α2α3)および係数(k1k2k3)を求めることです(次の項をご参照ください)。

注: 上記の入力データフォーマットは、各周波数での正弦波の定常状態動作を想定していますが、ツールで同定されるパラメータ(k1, k2, k3)および(α1, α2, α3)は、FluxのAC steady stateとTransientの両方のアプリケーションに有効です。

データフィッティング手法

特定の測定値セットに対して修正版Bertottiモデルの係数(k1, k2, k3)と指数(α1, α2, α3)を求めるため、同定ツールでは、以下に示す最小二乗最小化法を採用しています。

rijを、固有の損失測定値mijと修正版Bertottiモデルによる固有の損失予測値bij = dP(k1, k2, k3, α1, α2, α3, Bmaxi , fj) / ρ間(共に周波数fjで評価)の残差平方とします。この残差平方は、次の式で求められます:

rij = (mij - bij )2

同定ツールは、パラメータ(k1、k2、k3、α1、α2、α3)の初期推定値とExcelのGRG非線形ソルバー(ソルバーのアドインで使用可能)を使用して、総重み付き残差を最小にします。

R = Σj { wjΣi[ rij ] }

ここで、wjは測定値セット内の各周波数fjに起因する重みです。これらの重みとパラメータ(k1, k2, k3, α1, α2, α3)は、ゼロ以上の実数値に制限されます。

修正版Bertottiモデル同定ツールの使用方法

前述のとおり、修正版Bertottiモデル同定ツールは、Microsoft Excelファイルの形式で提供されます。このファイルは以下の3つのスプレッドシートで構成されます:

  • Identification Tool: 空の入力セルが含まれ、ユーザーが入力できる状態のスプレッドシート。
  • Single Frequency Example: 単一の周波数で実行された測定の値を使用する同定の例。
  • Multi-Frequency Example: 複数の周波数で実行された測定の値を使用する同定の例。
Identification Toolスプレッドシートを使用して係数k1、k2、k3および指数α1、α2、α3を特定するには、次の手順を実行する必要があります:
  1. “Measured Losses”テーブルに、1つまたは複数の周波数で実行された測定の値を入力します。
  2. セルの範囲C48:H48で、各周波数の測定値の重み付けを調整します。
  3. セルM5に材料の密度を指定します。
  4. セル範囲M11:M16に、Bertottiの係数および指数の初期推定値を設定します。
  5. Excelソルバーメニューを開きます:[データ] → [ソルバー](ExcelでSolver Add-inを有効にする必要があります)。
  6. Excelソルバーを次のように設定し、実行します:
    • “Set objective”欄に$L$19と設定します。
    • “To Min”オプションを選択します。
    • “By changing variable cells”欄に$M$11:$M$16と設定します。
    • “Subject to the Constrains”欄に$M$11:$M$16 >= 0と設定します。
    • “Select a Solving Method”欄で“GRG Nonlinear”ソルバーを選択します。
    • “Solve”をクリックします。
  7. “Modified Bertotti Model Parameters”テーブルで調整 / 更新された係数を探します。
  8. 下にスクロールして、調整されたBertottiモデルを各周波数での測定値と比較したプロットを確認します。
注: ユーザーは、周波数の重みを調整することで、各周波数で実行された測定の値の相対的な“重要性”を強化または弱化することができます。周波数の重みをゼロに設定すると、データフィッティングプロセスで該当する測定値が無視されます。
注: n+1回目の試行の初期推定値としてn回目の試行で特定されたパラメータを使用することで、複数回同定プロセスを実行すると有用な場合があります。“Least Squares Fitting”テーブルで各周波数について取得した部分残差を解析することで、各試行間で繰り返し重みを調整することも有用な場合があります。

参考資料