サスペンション設計係数

Model Assembly Wizardを使用してフロントまたはリアの車両モデルを構築する場合、Analysis Task Wizardを使用して、サスペンション設計係数(SDF)の出力要求を設定したアナリシスを追加できます。このアナリシスは、サスペンションの運動特性とコンプライアンス特性を評価するうえで効果的です。

例えば、あるSDFは、左右ホイールのライドモーションの増加に対するホイールのステア角の変化を定義したライドステアです。他のSDFとして、シャーシから見たサスペンションとタイヤのライドレートまたは垂直剛性があります。すべてのSDFとそれらの定義については、SDF出力をご参照ください。

SDFを計算するための出力要求では、50000000~50001000の範囲のIDを使用し、“msautoutils”ライブラリのユーザー関数“SDFREQUEST”を使用します。SDFREQUEST関数の1番目のユーザーパラメータは、計算対象とする特定のSDFを指定する“Branch ID”です。ユーザーサブルーチンに対するそれ以降の引数はSDFによって様々で、マーカーID、車両パラメータ、reqファイルへの出力を制御するフラグなどが含まれます。MotionSolve入力ファイルのSDFREQUEST関数に対する入力の詳細については、msautotilsでのSDF関数とのインターフェースのトピックをご参照ください。

重要な定義

コンプライアンス行列
SDF計算のための主な入力は、サスペンションのコンプライアンス行列です。
ステアリング機構の無いサスペンションの場合、コンプライアンス行列は、左右ホイール中心の変位のホイール中心における荷重とモーメントに関する偏導関数です。例えば、コンプライアンス行列の1列目を計算するには、MotionSolveで全体座標系のX方向に単位荷重を左ホイールの中心に適用し、静解析を実行します。この解析で得られた左右ホイール中心の位置と向きの変化が12x12行列の1列目になります。このプロセスを残りの11列で繰り返します。
SDFパラメータのドキュメントでは、コンプライアンス行列の各項をC(i,j)の表記で参照します。
  • i = 1~6  X Y Z RX RY RZ 左ホイール中心の変位
  • i = 7~12  X Y Z RX RY RZ 右ホイール中心の変位
  • j = 1~6  X Y Z RX RY RZ 左ホイール中心のフォース
  • j = 7~12  X Y Z RX RY RZ 右ホイール中心のフォース

コンプライアンス行列のエントリを読み取るときに、iは自由度で、jの自由度の力により変位させられます。例えば、C(3,9)は、右ホイール中心のユニット垂直力に起因する、左ホイール中心の垂直変位になります。

ステアリング機構のあるサスペンションの場合は、コンプライアンス行列を拡張して3つのマーカーを追加します。この拡張によって、仮想キングピン(ステア)軸の計算と、仮想キャスター角や仮想スクラブ半径のような関連特性の計算ができるようになります。これらの3つのマーカーのうち、ステアリングのマーカーでは、ステアリングトルクに起因するホイール中心のモーションを見極めます。他の2つのマーカーは、コンプライアンス行列を使用してステアの運動を計算する際にスプリングトラベルをロックするために、左右のサスペンションのばね下に結合されています。

キングピン軸
ホイールのステアリング中心となる想定軸または理想軸であり、ステアリング入力に起因するナックル回転に伴う瞬時軸です。この軸は、次の2種類の方法で計算できます。このことから、この軸に依存する指標が通常は2種類あります。
  1. 幾何学方式:軸の計算には、1つまたは2つのマーカーを使用することができます。どちらの方法を選択するかはモデルに依存します。1つのマーカーを使用する場合、この軸はそのマーカーのz軸であると想定されます。2つのマーカーを使用する場合、この軸は両方のマーカーを通過するラインです。SLAのアッパーボールジョイントとロアボールジョイントを、これらのマーカーとすることもできます。重要な留意事項として、マクファーソンサスペンションのようなシステムでは、2つのマーカーを使用する方法を選択する必要があります。上部と下部のピボットが同じボディを共有していないからです。インデックス2、3、13、14を使用する“Testrig Parameters Array”の説明および両方のケースのマーカーIDを渡す方法については、msautotilsでのSDF関数とのインターフェースのトピックをご参照ください。
  2. 仮想方式:すべてのサスペンションモデルについて、コンプライアンス行列を使用して、仮想キングピン軸を計算することができます。仮想キングピン軸は、スプリングトラベルをロックした状態でステアリング入力に起因して発生するホイール中心の回転の瞬時軸です。スプリングトラベルは、スプリング全体にわたってモーションを適用してロックされるのではなく、コンプライアンス行列を操作してロックされます。これらのロックをモデルで定義する方法については、ステアリングとスプリングトラベルのロックのトピックをご参照ください。
キングピン接地ポイント
キングピン軸がz = wcz -  slr平面と交わるポイント。

“ジャッキCPマーカー”を使用している場合、実装では実際のジャッキ平面を使用してこの交点が計算されます。この交点に基づいて、スクラブ半径とキャスタートレールが計算されます。

スピンドル軸
ホイールがスピンするときの軸。ユーザーが入力する2つのポイントによってスピンドル軸が定義されます。2つのポイントとは、ホイール中心とスピンドルアライメントポイントです。
静的荷重半径(slr)
現在の車両荷重における、ユーザー入力のタイヤの鉛直高さ(半径)。
タイヤパッチポイント
タイヤが地面に接触する推定ポイント。次の式を使用して計算されます:

tpx = (spalignx*spalignz*slr)/(spalignx^2+spaligny^2)+wcx

tpy = (spalignz*slr+spalignx*wcs+spaligny*wcy)/spaligny - spalignx/spaligny*tpx

tpz = wcz - slr

“ジャッキCPマーカー”を指定している場合は、そのマーカーで決まる地表平面と、その平面に対して垂直でホイール中心を通過するラインの交点として、タイヤのパッチポイントが決まります。

車両の方向
SDFの計算では、車両のフロントエンドが全体座標系のX軸の正と負のどちらの方向を指すのかに応じて、2つの方向スキームが考慮されます。
方向A
車両のフロントエンドが全体座標系のX軸の負の方向を指しています。
方向B
車両のフロントエンドが全体座標系のX軸の正の方向を指しています。

方向スキームに応じたこれらのSDFアイテムには、方向Aと方向Bにそれぞれ2セットの手法が提供されています。