トラクション制御システム

ブレーキ操作中だけでなく、タイヤと路面との接触領域で強い縦方向の力が伝達されるときにも重大な運転状況が発生する可能性があります。その理由は、過剰な縦方向のスリップが誘引されることから、伝達できる横方向の力が減少することにあります。発進と加速のときにも重大な状況の発生が考えられます。特に、滑りやすい路面、傾斜地、コーナリングでその可能性が高くなります。このような状況ではドライバーが誤った反応を示して、車両が不安定になる傾向があります。

トラクション制御システム(TC)は、いずれかの車輪に発生したスピンの兆候を検出し、車輪のスリップ率が目的の値に維持されるようにエンジンのトルクを調整します。これはブレーキ操作中のアンチロックブレーキシステム(ABS)と同様の動作です。その結果、車両が制御可能な状態に維持されます。


図 1.

最新の車両では、スロットル位置を測定するセンサーにスロットルペダルが接続されています。ここで測定した信号が車両のコンピューターによってスロットルアクチュエーターに送信され、エンジンの吸気が制御されます。この構成はドライブバイワイヤと呼ばれ、TCの動作に必須の機能です。TCはホイール回転速度センサーと加速度センサーを使用して縦方向のスリップ量を計算し、車輪がスピンしないようにドライバーのスロットル基準を調整します。

Assembly Wizardを使用して乗用車や小型トラックのモデルを構築するときに、トラクション制御システムの搭載を選択できます。MotionViewシステムのTCでは、ホイールの回転速度、車両の縦加速度、Driverのスロットル要求などの情報をMotionViewモデルから収集し、Functional Mock-up Unit(FMU)としてMotionViewにインポートしたTC Activateモデルへの入力としています。TC Activateモデルは、車輪のスリップを推定して、MotionViewのパワートレインシステムに調整済みスロットルを出力します。パワートレインシステムは、この調整済みスロットルに基づいて、車両を運転するうえで必要な等価トルクを出力します。Traction Controller Activateモデル(.scmファイル)はMDLライブラリ(…\hwdesktop\hw\mdl\mdllib\Common\FMU_Library\TC)に用意されていて、表示と編集ができます。

以下の図は、TC ActivateモデルとMotionViewのパワートレインモデルとの関係を示しています。



図 2.

ActivateのTCモジュール

TCブロックの全体を以下の図に示します。


図 3.

TCのスロットルコントローラー

TCのスロットルコントローラーは、スリップ誤差を使用するほか、積分項にアンチワインドアップを適用するPIコントローラーも使用して、スロットルモジュレーターで使用する制御信号を生成します。


図 4.
アンチワインドアップにより、0からドライバーのスロットル要望値の範囲で制御信号が飽和します。これにより、どの時点でも目的値を超える速さで車両が加速することがありません。アンチワインドアップコントローラーを備えたPIを以下に示します。


図 5.
縦方向のスリップは、次のように、ホイールの回転速度と車両の縦速度から計算します。
ここで:
  • :縦方向のスリップ
  • :ホイールの回転速度
  • :車両の縦速度
  • :タイヤの半径
  • =0のときに不定な値が発生しないようにするための微小値


図 6.
スリップの計算で使用する車両の縦速度は、ホイールの回転速度センサーで得られた信号と加速度計で測定された車両の縦加速度を使用した推定を参考にしています。


図 7.
これらの信号のサンプリングごとに、次の3つの補助信号がただちに計算されます:
  • 4つのタイヤで平均したホイール速度
  • 2つの非駆動タイヤで平均したホイール速度
  • 縦加速度

以下のブロック図にあるように、非駆動輪を特定するスイッチがあります。



図 8.
この推定アルゴリズムの動作は、次の4つの値で表現した車両のステータスによって異なります。
  • 車両の速度がきわめて遅い
  • 車両が加速中
  • 車両が一定速度にあるか、ゆっくり減速中
  • 車両が減速中

このステータスの計算は、1つ前の時間ステップにおけるステータスと、アルゴリズムの安定化を目的とするヒステリシスを設定したしきい値に基づきます。











図 9.
車両の現在のステータスに基づく速度推定は次のとおりです。
最後に、TCの電子制御ユニットでは、TCのトリガーも実行します。このトリガーは、ホイールに顕著なスリップが発生したときに発生します。ここでは、スロットルをTCモジュールで制御するかどうかを指定するスイッチとして、この電子制御ユニットが機能します。


図 10.
また、ユーザーやドライバーがTCをアクティブ化または非アクティブ化できるように手動スイッチも備えています。


図 11.

トラクションコントロールシステム(TC)を搭載した車両モデルの作成

以下の手順に従って、TCを搭載したフルビークルモデルを作成します。
  1. MBD-Vehicle Dynamics Toolsプリファレンスファイル(File > Load > Preference File > MBD-Vehicle Dynamics Tools)を読み込みます。


    図 12.
  2. ModelタブでSet Wizard PathCar/Small Truckの順に選択します。
  3. ModelタブでAssembly Wizardを選択します。


    図 13.
  4. ダイアログの8ページでTraction Controller (TC)を選択します。


    図 14.
Assembly Wizardで所定の選択を完了すると、Altair Driverとトラクションコントロールシステムを搭載したフルビークルモデルが得られます。


図 15.


図 16.
車両のトラクション方式としてFWDまたはRWDを選択することで、コントローラーが所定の設定で自動的に定義されます。パワートレインを切り替えた場合は、トラクションコントロールのフォームで、トラクションコントロールに適した値を設定する必要があります。
図 17.