非メッシュ化コイル磁界源
概要
本章では、Fluxプロジェクトでの非メッシュ化コイルの作成について説明します。メッシュ化コイル領域と異なり、このタイプのコイルエンティティは非メッシュ化磁界源の特殊なケースです。
- このタイプの非メッシュ化磁界源でモデル化する対象。
- Fluxプロジェクトで非メッシュ化コイルを作成する方法。
- 制限事項。
- 用途の例。
この種類の領域でモデル化する対象
非メッシュ化コイルは、ビオ-サバールの法則に従って磁界を生成する、3次元空間での電流経路と解釈できます。通常の意味でFluxによって表現する有限要素ドメインには、非メッシュ化コイルは属していません。このようなコイルは、ライン、フェイス、ボリュームのように離散化した形状エンティティからは独立しているので、有限要素ドメインに重畳されるものと見なされます。
非メッシュ化コイルは、同様にFluxで使用できるメッシュ化コイルエンティティと異なり、物理的領域にも関連付けられていません。一方、非メッシュ化コイルは、外部回路に接続するか、メッシュ化コイル領域と同様にFE連成コンポーネントを使用して電流を適用する必要があります。
上記のような特性があることから、形状メッシュや有限要素メッシュを現状より複雑にすることなく、非メッシュ化コイルをFluxプロジェクトに追加できます。したがって、デバイスの表現が複雑な形状である場合や、巻線自体が手の込んだ形状である場合に、非メッシュ化コイルの手法が効果的です。
- 円形コイル
- 矩形コイル
- 鞍形コイルおよび多鞍形コイル
さらに、任意形状のコイルを次の非メッシュ化コイルタイプで表現できます:
- 合成コイル
Fluxプロジェクトでの作成方法
- メニューからPhysics、Non-meshed coil、Newの順に選択します。
- データツリーでNon-meshed coilを2回クリックし、Physics、Non-meshed magnetic sourcesの順に選択します。
どちらの方法でも、新しい非メッシュ化コイルの作成専用のウィンドウが表示されます。
Geometric Definitionタブで次の手順に従い、作業を継続します:
- Type of coilドロップダウンメニューからコイルテンプレートを選択します。
- 選択したコイルテンプレートで必要な形状パラメータ(座標系や寸法など)を指定します。必要な形状パラメータはテンプレートごとに異なるので、Geometric Definitionタブに表示される入力とその説明のリストは、選択したテンプレートに応じて変化します。 注: 既存のコイルテンプレートは、前項で説明した各コイルタイプに対応しています。各コイルタイプを定義する形状パラメータの概要が、こちらのトピックにあります。各コイルテンプレートの詳細については、次の各リンクをご参照ください:注: コイル作成ウィンドウには、選択したコイルテンプレートの各形状パラメータが持つ意味がわかるように、アニメーション化した図も表示されます。
Electricalタブで、次の各パラメータを指定する必要があります:
- コイルに関連する電気コンポーネント(より線コイル)
- コイルの巻数
- コイルのフィルファクター(オプション)
- コイル材料の固有抵抗(Ωm)(オプション)
- コイル材料の密度(kg/m3)(オプション)
- Symmetries and periodicities: conductors in series or parallel
- Symmetries and periodicities: duplication or none注: 周期性も対称性もないプロジェクトでは、これらの欄を変更しなくてもかまいません(それぞれデフォルトオプションのAll the symmetrical and periodical conductors are in seriesおよびDuplication by the symmetries and the periodicitiesとします)。注: 対称性または周期性があるプロジェクトでこれらの欄を調整する方法の詳細については、Fluxでのコイルエンティティ作成に対称性と周期性が及ぼす影響に関するトピックをご参照ください。
制限事項
非メッシュ化コイルはすべての磁気アプリケーションで使用できますが、こちらのトピックの説明にあるようにFlux 3Dでの使用に限られます。非メッシュ化コイル磁界源
非メッシュ化コイルで発生するジュール損失を評価するには、前項で取り上げた2つのオプションパラメータを両方指定する必要があります。正確に言うと、非メッシュ化コイルを作成するときに、Electricalタブでコイル材料の固有抵抗と巻線のフィルファクターの両方を指定する必要があります。これにより、ジュール損失とそれに関連する他の量をポスト処理できるようになります(等価抵抗の評価など)。
これらのパラメータをどちらも指定しない場合またはいずれか一方のみを指定した場合、ジュール損失のポスト処理で見られる挙動は、損失のないコイル導体領域の場合と同様になります。言い換えれば、これらのパラメータがわかっていないと、Fluxでは等価抵抗もジュール損失も評価できません。
一方、固有抵抗とフィルファクターの両方を指定すると、非メッシュ化コイル磁界源でのジュール損失のポスト処理では、損失と簡潔な形状記述があるコイル導体領域の場合と同様の挙動が見られます。したがって、AC Steady Stateアプリケーションと過渡アプリケーションでは、表皮効果と近接効果と関連する電流集中現象を非メッシュ化コイルでは表現できないことに注意が必要です。この場合は、高周波数で本来より少ないジュール損失が示されます。
非メッシュ化コイルと関連付けたFE連成コンポーネントは連成電気回路に接続できるほか、そのFE連成コンポーネントに流す電流を指定することもできます。連成電気回路に接続する場合、無限ボックスがないプロジェクトでは、正しい結果を得るためにドメインのメッシュ化部分に非メッシュ化コイルを配置する必要があります。FE連成コンポーネントに流す電流を指定する場合は、無限ボックスがなくても、ドメインの任意の場所に非メッシュ化コイルを配置できます(空の非メッシュ化領域でもかまいません)。
現時点のFluxでは、非メッシュ化コイルに対する電磁力は計算できません。コイルに対する力の評価を必要とする用途では、メッシュ化した導体領域を使用する必要があります。
用途の例
図 1 は、非メッシュ化コイルを使用してFlux 3Dでモデル化した、医用MRIスキャナの主磁石の部分です。
上記のプロジェクトでは、非メッシュ化コイルで使用できる合成コイルテンプレートを使用して、MRI磁石の6つのサブコイルを表現しています。このタイプの非メッシュ化コイルを使用すると、この例のように、巻線内部の電流経路を示す各点の座標を収めたファイルをインポートできます。したがって、複雑な形状の巻線を表現する際に特に効果的です。
このような状況では、非メッシュ化コイルの使用が有利です。Fluxプロジェクトでの形状の記述が簡潔になるからです。非メッシュ化合成コイルは、計算ドメインに重畳されるだけであり、形状から独立した状態を維持します。
メッシュ化コイルを使用して、同じMRIデバイスの別の表現を同様に作成できます。 図 2 は、軸対称磁気アプリケーションでFlux 2Dを使用してモデル化した、上記と同じMRI磁石の部分です。損失と簡潔な形状記述があるコイル導体領域を使用して巻線を表現しています。
表 1 は、上記の2つのモデルで評価した磁束密度の比較です。非メッシュ化コイル手法による結果が、メッシュ化コイルモデルによる結果と良好に一致していることがわかります。どちらの場合も、MRI磁石には1Aの電流を流し、その中心に磁束密度を測定するセンサーを設けています。
非メッシュ化コイル(Flux 3D) | メッシュ化コイル領域(Flux 2D - 軸対称) | |
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磁石の中心における磁束密度の軸方向成分(µT) | 102.82 | 102.88 |