エアバッグ展開のデバッグ

ここでの目的は、エアバッグが適切に展開しないシミュレーションや、エアバッグが原因でクラッシュするシミュレーションのトラブルシューティング方法に関するガイドラインを提示することです。

さまざまな理由により、エアバッグが適切に展開しないことや、エアバッグが原因でシミュレーションがクラッシュすることがあります。ここでは、多く見られる問題を取り上げます。

単位系

各種パートの密度と係数を調べ、それらが同じ単位系に基づいていることを確認します。たとえば、プラスチックパートと金属パートのヤング率が次の範囲に収まっている必要があります。

0.01GPa < E < 210Gpa

これらの値を確認するには、HyperCrashQualityプルダウンメニューにあるコンター確認機能を使用します。

誤った接触定義

接触の欠落
エアバッグが展開時に引っかかることや固着することを防止するには、以下の接触を定義します:
  • サーフェスとエッジとの接触に対するエアバッグの自己接触。
  • エアバッグと環境との接触(IPやステアリングホイールなど)
    • TYPE7: エアバッグはセカンダリ、環境はメイン
    • TYPE7対称接触: 環境はセカンダリ、エアバッグはメイン
    • TYP11: エアバッグはセカンダリ、環境はメイン
    • 代替手法は、エアバッグをセカンダリ、環境をメインとした単一のTYPE19を定義することです
    • 破壊を定義している場合は、Idel=1(臨界)と設定します
貫通と交差

交差はバッグの適切な展開を妨げるため、取り除く必要があります。バッグの自己衝撃接触で交差が発生しないこと、バッグと環境との間にも交差が発生しないことが必要です。交差を確認するにはHyperMeshまたはHyperCrashを使用します。

貫通は、折り畳んだエアバッグの自己接触で多く見られます。貫通がまったく発生しないことが理想的です。フラグInacti=6を設定すると、ギャップが自動的に狭くなり、貫通による初期接触力の発生を防止できます。ただし、ギャップが自動的に狭くなった後も、適切なギャップが残っている必要があります。したがって、最大貫通量は接触ギャップの95%未満とする必要があります。貫通を確認するには、HyperCrashまたはHyperMeshの貫通チェックツールを使用します。

センサーと参照形状

エアバッグへの注入開始時間(TTF)を設定するセンサーの/MONVOL sens_IDを、材料則LAW19またはLAW58のsens_IDでも参照する必要があります。このセンサーを使用すると、参照形状をアクティブにする時期をソルバーで認識できます。

同じsens_IDを使用しないと、エアバッグが展開してから数ミリ秒後に誤った挙動が発生し、エアバッグが非現実的な変形に至ることがあります。

誤った材料

エアバッグの材料で推奨値を確認します。

誤ったプロパティ

エアバッグの形状は非常に複雑であるため、三角形要素(3節点シェル)も多用します。エアバッグに使用するプロパティの推奨値は次のとおりです:
  • /PROP/TYPE9(LAW19の場合)

    Ish3n=2Ismstr=1N=1

  • /PROP/TYPE16 (LAW58の場合)

    Ish3n=2Ismstr=4N=1

誤った参照形状

最初の数サイクル後にシミュレーションで障害が発生し、初期内部エネルギーがきわめて大きくなる場合は、参照形状が誤っているか破損していることが原因として考えられます。参照形状はHyperCrashで表示できます。エアバッグにすべての要素が存在し、これらの要素の形状が歪んでいないことを確認します。

展開から50ミリ秒後のエアバッグ表面が滑らかではない場合(図 1)、エアバッグのすべてのパートに参照形状を定義していることを確認します。


図 1.

誤った境界条件 / 初速度

エアバッグのキャニスターに適用している境界条件があるかどうかを確認します。そり / フルビークルのシミュレーションでは、このような境界条件によって、エアバッグが車両と共に移動できないことがあります。そのような境界条件は、別のエアバッグモデルシミュレーションで使用されたものであることが考えられます。

初速度を伴うそりのケースを実行する場合は、エアバッグが存在することを必ず確認します。そのためにお勧めできる手法として、車両のみを表示し、すべての節点の初速度がt=0の時点で0より大きいことを確認します。

ボイド材料を使用したパート内の内部節点

ボイド材料を割り当てたパートには、内部節点が存在しないことが必要です。ボイド材料には剛性がないからです。ボイド材料は、連結サーフェスやベントを定義するために使用することがあります。


図 2. 左図:内部節点がないボイド材料、右図:不適切なボイド材料に存在する内部節点

誤った法線方向

モニター体積の場合、サーフェスを定義しているすべてのセグメントの法線が外側を向いている必要があります。そうでない場合は、ソルバーからStarter出力ファイルにエラーメッセージが出力されます。
ERROR ID :           8
** ERROR IN MONITORED VOLUME DEFINITION
DESCRIPTION :
     --MONITORED VOLUME ID :     6620000
     --MONITORED VOLUME TITLE :     PAB
OPEN VOLUME OR WRONG ELEMENT ORIENTATION
SOLUTION :
   VOLUME MUST BE CLOSED AND NORMALS OUTWARD-ORIENTED
モニター体積を定義している要素の法線をHyperCrashまたはHyperMeshで確認して、適切に調整します。
注: 参照形状を/EREFで定義している場合は、要素の法線を変更しないようにする必要があります。変更すると、参照メッシュおよび折り畳んだメッシュまたはスケーリングしたメッシュでの要素結合が切り離されることがあるからです。

要素の法線を変更するのではなく、特定のコンポーネントのサーフェスを生成する際に、法線の反転をソルバーに要求することをお勧めします。

次の例では、パートID = 1の法線をソルバーで反転しています。
/SURF/PART/19
Airbag
        -1          2          3          5          8          9

エアバッグの時間ステップ、/DT/FVMBAG/1

Engineファイルに、時間ステップ処理/DT/FVMBAG/1を記述する必要があります。

例:
/DT/FVMBAG/1
0.9 0.0002
/FVMBAG/MODIF
#monvol_ID
2000
# igmerg cgmerg cnmerge ilvout
1  0.01000   0.001000   1

静的展開試験

車両モデルにエアバッグモデルを適用する前に、静的展開試験の実施をお勧めします。

この試験では以下を使用します:
  • フルビークル / スレッドシミュレーションで使用する時間ステップのEngineファイルパラメータ(/DT/NODA/CST/DT/INTER/DELなど)
  • フルビークル / スレッドシミュレーションで使用するソルバーのバージョン

エアバッグが適切に展開することを確認します。付加質量、体積、圧力、気体質量、流出気体質量をチェックして、エアバッグが想定どおりに展開することを確認します。この試験でエアバッグが想定どおりに展開しない場合、フルビークルでエアバッグが適切に展開する可能性はほとんどありません。