インダクタンスマトリックスの計算

概要

バージョン2020以降、Fluxでは、より線導体回路コンポーネントを含む各デバイスの自己インダクタンスおよび相互インダクタンス(皮相および増分)の時間発展を計算できます。以前はユーザーがPythonスクリプトを開発する必要があったこの計算が、自動化されました。

Transient Magneticアプリケーションで使用できるようになったこの新機能は、Fluxによって自動的にバッチ処理される一連の静磁気シミュレーションを含み、ユーザーが追加で介入する必要はありません。こうして、これらのシミュレーションで実行されるコイルにリンクされる磁束の評価から、デバイスの自己インダクタンスと相互インダクタンスのセットが得られます。

インダクタンスが計算されると、生成された値がエクスポート可能なFluxの入出力パラメータとして格納されます。ユーザーは、これらを容易に利用して、時間発展を表示したり、経時変化するインダクタンスマトリックスをアセンブルすることができます。

この新しいツールの一般的な用途としては、回転電気機器の制御が挙げられます。たとえば、Fluxによって計算されるインダクタンスマトリックスを使用して、Altair Activate®などのシステムシミュレーションソフトウェアでマシンを表現することができます。

使用方法

この機能は、Fluxの2Dモジュールにおいて、ポスト処理モードの際に、解析済みTransient Magneticプロジェクトで使用できます。このような状況において、Fluxでインダクタンスの計算を開始するには:

  • ComputationメニューでComputation of Inductance Matrixコマンドを選択します。
  • 評価するインダクタンスタイプとして、apparentincrementalapparent and incrementalから選択します。
    皮相インダクタンスLappと増分インダクタンスLincrの定義を図 1に示します。


    図 1. 動作ポイント(φ0, i0)におけるその特性関数φ(i)から得られる、電磁デバイスの皮相インダクタンスLappと増分インダクタンスLincr。
  • ソースコイル(つまり、磁束を生成するより線導体コイル)を選択します。
  • ターゲットコイル(つまり、磁束を受けるより線導体コイル)を選択します。
    注: たとえば、プロジェクトに2つのコイルがある場合、インダクタンスマトリックスには次の4つの項が含まれます:L11、M12、M21、L22ユーザーが1番目の項をソースコイルとして選択し、1番目と2番目をターゲットコイルとして選択すると、Fluxは次の2つの項を評価します:L11、M12
  • 結果を格納する、Fluxによって作成される入出力パラメータの名前に含まれる文字列(PREFIXなど)を指定します。
  • OKをクリックして計算を実行します。
    注: 一連の静磁気シミュレーションは、Supervisorオプションに設定されたコアの数に従って自動的に決定される、特定数のFluxインスタンス間に分散されます。使用されるコア数を設定するには、Supervisor > Options > System Options > Parallel computingに移動します。
  • 計算が終わるまでに、結果が 入出力パラメータのリストPREFIX_APP_X_Y(皮相インダクタンス計算の場合)またはPREFIX_INCR_X_Y(増分インダクタンス計算の場合)という名前で表示されます。
    注: ユーザーは、入出力パラメータから2D曲線を描画し、結果の時間発展を確認できます。また、これらをファイルにエクスポートして、他のソフトウェアで利用することもできます。

アプリケーション例

この新しい機能を使用したインダクタンス計算は、図 2に示すデバイスのケースで実行されています。これは、Flux Supervisorの例のカタログ(Technical tutorials、Brushless IPM motorの下)で参照できます。このデバイスは永久磁石回転子を有する3相8極の同期機です。



図 2. 永久磁石回転子を有する3相8極の同期機。

この例では、回転子速度が1200rpmの場合の皮相インダクタンスマトリックスがFluxで計算されています。固定子コイルa、b、cはそれぞれ同時にソースとターゲットのコイルとして指定されました。これらの巻線には、図 3に示す回路に従って、電流源Ia、Ib、およびIcによる電流が供給されます。



図 3. 図2に示した同期機をモデル化するFluxでの電気回路。同期機の固定子巻線をモデル化する、3つのより線コイル導体回路コンポーネントに注目してください。

皮相自己インダクタンスLa、Lb、Lcと皮相相互インダクタンスMab=Mba、Mbc=Mcb、Mac=Mcaの時間変動がFluxによって計算されました。その結果を図 4に示します。



図 4. Fluxによって計算された、図2の同期機の自己インダクタンスおよび相互インダクタンスの時間発展。入出力パラメータに格納された結果は、エクスポートされ、この図を生成するためにAltair Compose®で処理されます。

各時間ステップで、3つの固定子コイルにリンクされた磁束成分φa、φb、φcが、次の方程式によって皮相インダクタンスに関連付けられます。

φ a φ b φ c = L a M a b M a c M b a L b M b c M c a M c b L c   I a I b I c + φ 0 a φ 0 b φ 0 c .

この最後の方程式で、項φ0a、φ0b、φ0cは、同期機の磁石により生成され、固定子巻線を連結する磁束成分を表します。

制限事項

前述のとおり、この機能は、Fluxの2Dモジュールで、Transient Magneticアプリケーションに対してのみ使用可能です。その他、Fluxプロジェクトでは、以下の制約にも従う必要があります:

  • 異方性材料および非線形磁石は使用できません。
  • ヒステリシス材料は使用できません。
  • ライン領域は使用できません。
  • 形状パラメータを含むシナリオは使用できません。
  • 回路に依存する式は使用できません。

参考文献

より線導体コンポーネント

Transient Magneticアプリケーション: 基本

Magneto Staticアプリケーション: 基本

I/Oパラメータ(入出力)

2D曲線

N次元データテーブルのエクスポート