伝達経路解析

伝達経路解析(TPA: Transfer Path Analysis)は、システム内の異なる構造伝達経路を介する騒音またはノイズを推定、ランク付けするために使用されます。

TPAの機能は与えられた車両への載荷の下で、どの車体インターフェース領域が車体内部の最も重要なNVH応答に対して支配的であるかを特定するために用いられます。この計算には、伝達関数、ポイントモビリティー、節点力および経路寄与が含まれます。


図 1.
(1) X t =   p a t h s [ X i ]   =   p a t h s [ ( X F ) i   *   F i ]
ここで、
X i
特定の位置における音響または構造の応答
X i
右記の経路からの寄与; i
( X F ) i
右記の経路についての音響または構造の伝達関数; i
F i
右記の経路を介したアタッチメント力; i

設定と実行

シミュレーションでの典型的な伝達経路解析は2つステップを必要とします。

ツーステップ設定

  • 組み立てられた状態でシステムのアタッチメント力を計算します。
    • フルビークルモデルなどのシステムを組み立て、TPA解析が実行される応答(音響または構造)を特定します。一般的な音響応答は、ドライバーの耳位置近くの節点における応答です。構造応答は、たとえば、ドライバーが自分の手を置くハンドルの応答ポイントにおける応答などです。
    • 加振される構造(図 1ではパワートレインとシャーシ)から応答する構造(この図ではボディ)に荷重が伝達されるすべてのアタッチメントポイントを特定します。アタッチメントポイントの各自由度(DOF)が伝達経路になります。
    • アタッチメント自由度に作用するフォースと音響 / 構造応答(上記手順iで特定されたもの)を計算する周波数応答解析を設定します。ソルバーによって計算された音響 / 構造応答は、式 1に示す経路を合わせて構成された音響 / 構造応答と比較されます。
  • 分離された状態で応答構造の伝達関数(TF)を計算します。
    • アタッチメントポイントでシステムを分割し、分離された応答構造で、加振された構造に結合されていないかのようにフリーボディ解析を実行します。
    • 図 2に示す各アタッチメント自由度に単位荷重を適用することにより、アタッチメントポイントと応答節点間の交差伝達関数(構造応答節点の振動伝達関数および音響応答節点の音響伝達関数)、および駆動ポイントの伝達関数(すなわち、ポイントモビリティー)を計算します。


      図 2. 伝達関数とポイントモビリティーの計算

自動化されたTPAプロセス(ワンステップTPA)

OptiStructでは簡略化されたプロセスが開発されており、ここでは、TPA解析に必要とされるデータが(PFPATHカードを用いて)1つの周波数応答解析の実行内でリクエストでき、伝達関数とアタッチメント力は1つのH3Dファイルに出力されます。

従来のTPAは2つのソルバーランを含み(設定と実行を参照)、HyperView内のNVHユーティリティに用意されているTPAポスト処理ユーティリティで経路の詳細の自動割り当てを可能とするためには、サブケースが精確にラベル付けされている必要があります。

結果のH3DファイルがHyperViewのTPAユーティリティに読み込まれると、伝達関数結果はアタッチメント力結果と自動的にマッチアップされます。この自動化されたTPAプロセスは、TPA解析の効率性とロバスト性を著しく向上させます。

設定

ワンステップTPAでは、ツーステップTPAで必要とされる複数のサブケースの設定に煩わされることはありません。これは、伝達関数解析の実行には自由度毎のアタッチメントポイントにつき1つのサブケースをセットアップする必要があるためです。また、ツーステップTPAでは、TPAユーティリティが自動的な経路の割り当てができるよう、これらのサブケースを非常に注意深くラベル付けしなければなりません。

ワンステップTPAを設定するために必要なのは、PFPATHバルクデータエントリを追加し、既存の周波数応答実行用にそれをFEMファイルのPFPATH入出力オプションエントリを使って参照することだけです。PFPATHは、モーダル法および直接法周波数応答解析の両方についてサポートされています。PFPATHは入力としてForce、Enforced Displacement、VelocityおよびAccelerationをサポートします。以下に、PFPATHバルクデータエントリの各フィールドを示します。


図 3.
PFPATHに必要なデータ:
CONPT
結合点のタイプGRID SETのSID
RID
タイプGRIDCの応答SID。結合点を通したそれぞれの応答自由度への寄与が計算されます。
RTYPE
応答のタイプの規準; 構造の自由度に対応する応答タイプは、変位(DISP)、速度(VELO)または加速度(ACCE)です。流体節点上の圧力については、タイプはDISPです。
PFPATHのオプションデータ:
CONEL
CONPT内の結合節点につながっている要素からなるELEMENTセット。
これらの要素が残りの構造からユーザー定義のコントロールボリュームへの結合経路を表現します。
CONREL
CONPT内の結合節点につながっている剛体要素からなるRIGIDセット。
これらの剛体要素が残りの構造からユーザー定義のコントロールボリュームへの結合経路を表現します。
CONVOL
コントロールボリュームを定義するために使用される節点からなるGRIDセット。
CONVOLが指定されていない場合、OptiStructによって<filename>_outsidecv.femというファイルがエクスポートされます。このファイルには、コントロールボリュームの外部にある全節点のリストが含まれています。このファイルをHyperMeshにインポートし、コントロールボリュームの外部にある節点を可視化することができます。

PFPATHカードの使用を示す*.femファイル
PFPATH=1
$$------------------------------------------------------------------------------$
$$                      Case Control Cards                       		  $
$$------------------------------------------------------------------------------$
SUBCASE 1 
   DLOAD=10
   FREQ = 2
   METHOD = 1
…
BEGIN BULK
PFPATH,1,100,10,DISP
.
.
…
ENDDATA

結果ファイル

HyperViewのTPAユーティリティには2つの結果ファイルが必要です。

ツーステップTPA

  • 伝達関数出力ファイルには、TPA解析が必要とされるアタッチメント自由度と応答節点間の交差伝達関数の結果が含まれます。このファイルでは、オプションですが推奨として、駆動ポイントの可動性(PM)結果も使用でき、これによって局所的な剛性のアタッチメント効果を検証できます。
  • フォース出力ファイルには、TPAが実行されるアタッチメント力と応答節点の応力の合計が含まれます。フォースは、TF出力に使用される座標系に合わせた局所座標系(LCS)を使用して出力されるものとみなされます。一貫性を確保するための最も簡単な方法は、OptiStructによりGPFORCE出力リクエストを使用する方法です。
    表 1. 一般的なフォースリクエスト
    フォースリクエストのタイプ 出力LCS コメント
    GPFORCE グリッド解析LCS フォース入力LCSと同じ
    ELFORCE 要素LCS 入力LCSとは異なる場合もある
    SPCFORCE グリッド解析LCS フォース入力LCSと同じ

ツーステップTPAには、2つの別個の結果ファイルがあり、一方には伝達関数(およびオプションのポイントの可動性結果)が含まれ、もう一方にはTPAが実行されるアタッチメント力と応答節点の応力の合計が含まれています。

ワンステップTPAでは、すべての結果(伝達関数、ポイントの可動性、アタッチメント力、応答の合計)は1つのH3Dファイルにあります。

ツーステップTPAの結果を解析する際、サブケースのラベル付け方法(以下を参照)に従っていれば、TPAユーティリティによる経路の詳細の自動割り当てが可能になります。

TFサブケースのラベル付け方法

Excited Grid ID:DoF<>Connector Element ID:DoF<>L1:L2:L3:DoF

ここで、L1、L2、L3は経路寄与を集計するために使用されるアタッチメントポイントの説明のレベルです。

4003003:+X<>3003:+X<>Frt Susp.:LCA - Frt Bush:LHS:+X
ここで、
4003003:+X
は、経路の基本記述子で、加振される節点IDと自由度を示します。
<>
は、ラベルのパート間の区切り文字です。
Frt Susp.:LCA - Frt Bush:LHS:+X
は、アタッチメントポイントと自由度についてのより意味のある説明です。

TFサブケースのラベルには、ラベルのいずれかのパートが欠落している場合もありますが、ラベルが完全であるほど、解析に必要な経路情報を十分に定義するために手動で入力する手間がかかりません。

TFサブケースラベルのシナリオ

  1. ラベルなし、または予期せぬラベル。

    このユーティリティでは、Path DetailsダイアログですべてのTFサブケースを使用可能にし、ユーザーがPointタブで手動で伝達経路を追加したり、TFタブで各経路に適切なサブケースを割り当てることができるようにしています。

  2. パート1のみのラベル - 加振される節点ID: 自由度。

    このユーティリティでは、Pointタブで伝達経路のリストを構築し、TFタブでラベル付けされたサブケースを対応する経路に割り当てます。解析を進めるには、ユーザーが手動でフォースを経路に割り当てる必要があります。

  3. パート1とパート2を含むラベル - コネクター要素ID: 自由度。

    このユーティリティでは、Pointタブで伝達経路のリストを構築し、TFタブでラベル付けされたサブケースを対応する経路に割り当て、Forceタブで節点IDまたは要素ID、あるいはその両方と一致するフォースデータを適切な経路に割り当てます。

  4. 3つすべてのパートを含むラベル 。

    このユーティリティでは、Pointタブで伝達経路のリストを構築してアタッチメントポイントに適切な説明を追加し、TFタブでラベル付けされたサブケースを対応する経路に割り当て、Forceタブで節点IDまたは要素ID、あるいはその両方と一致するフォースデータを適切な経路に割り当てます。

ワンステップTPA

すべての結果(伝達関数、ポイントの可動性、アタッチメント力、応答の合計)は1つのH3Dファイルにあります。結果のH3DファイルがTPAユーティリティに読み込まれると、TF結果は、TFとアタッチメント力に使用されている座標系と一貫性をもつことが保証されているアタッチメント力結果と自動的にマッチアップされます。これは、TPA解析の効率性とロバスト性を著しく向上させます。

ポスト処理

HyperViewのTPAユーティリティを用いたポスト処理

  1. HyperViewNVHメニューからTransfer Path Analysisユーティリティを起動します。または、File > Load > Preference Fileを選択します。
    Preferencesダイアログが、図 4のように表示されます。


    図 4. NVHメニューの読み込み
  2. NVH Utilitiesを選択します。
  3. Loadをクリックします。
  4. Loadタブで、伝達係数結果および力(アタッチメント力)結果を含んだ結果ファイルを指します。
    ツーステップTPAの場合、これらは2つの異なるファイルですが、ワンステップTPAでは伝達係数およびアタッチメント力結果を含む1つのh3dファイルです。
  5. Loadをクリックします。
    ワンステップTPA用のPath Detailsダイアログが自動的に開きます。先のセクションで述べたようにサブケースの命名法に従っている場合は、ツーステップTPA用のPath Detailsダイアログが自動的に開きます。


    図 5. TPAユーティリティのLoadタブ
  6. Path Detailsをクリックし、すべての経路が考慮されているかどうかを確認します。
  7. Closeをクリックします。
  8. Pathタブで、Applyをクリックします。


    図 6. Path Detailsウィンドウ
  9. Subcaseタブで、リストされている周波数応答サブケースを選択し、Applyをクリックします。
  10. Responseタブで、Subcase、Result type、Response IDおよびDirection componentを選択します。
    ヒント: Response IDのためのResponse labelを指定することも可能です。すべてのアタッチメントポイントについて各自由度のプロットを確認する必要がある際は、オプションGenerate all path contribution plotsを選択します。
  11. Load Responseをクリックします。
    注: すべての経路(EQ 1のRHS)の要約であるCalculated Responseが、ソルバーによって計算された応答に対してプロットされます(図 7を参照)。すべての経路が考慮されており、アタッチメント力の出力に使用されている座標系が伝達経路出力に使用されている座標系と揃っている場合は、Calculated ResponseはSolver Responseとマッチアップするはずです。


    図 7. Solver Response v/s Calculated Response(すべての経路の要約)
    注: オプションGenerate all path contribution plotsがオンとなっている場合、以下もプロットもされます:
    • アタッチメントポイントの各自由度からCalculated Responseへの寄与
    • 各自由度についての伝達関数(TF)
    • 各自由度を介した入力フォース
    • 各自由度についてのポイントの可動性(要求された場合)


    図 8. 自由度R1の経路寄与(X周りの回転). Calculated Responseに対するAttachment Pointsの1つの


    図 9. 自由度R1の伝達関数(TF)(X周りの回転). Attachment Pointsの1つの


    図 10. 自由度R1の入力フォース(X周りの回転). Attachment Pointsの1つの


    図 11. 自由度R1のポイントの可動性(X周りの回転). Attachment Pointsの1つの
  12. TPAユーティリティは自動的にDisplayタブに進みます。問題の周波数、すなわち、ターゲットレベルを上回る可能性のある応答のピークを選択し、特定の周波数における応答への一番の要因(寄与度)を求めます。
    注: 一番の要因を表示するために、多くの可視化オプションが用意されています: Bar Plot(デフォルト)、Polar Plot、2D Line、3D Bar、3D SurfaceおよびForce Vector。

    Bar Plot、Polar PlotおよびForce Vectorは特定の周波数における一番の要因を示す一方、2D Line、3D Barおよび3D Surfaceは、周波数範囲全体での一番の要因を示します。

    下に示すのは、Bar Chartフォーマットでの特定の周波数(たとえばここでは47.0 Hz)における一番の要因です。Bar Chartでは、一番左のバーが応答を示します。寄与はパーセンテージで示されます。図 12に示す例では、一番の要因はEngine Mount 3 Y (T3) directionの55.47%、次がEngine Mount 2 X (T1) directionの35.83%です。



    図 12. Bar Plotでの特定の周波数における一番の要因
    ヒント: 周波数範囲全体での一番の要因が興味の対象である場合は、2D Line、3D Barまたは3D Surface可視化オプションを使用します。
    重要: 下に示すのは、2D Lineプロットを用いた40.0 Hz~80.0 Hzの周波数範囲における一番の要因です。ランキングの決定には、RSS法が選択されています。RHS上のプロットで青色の曲線がTotal Responseです。40.0 Hz~80.0 Hzの周波数範囲における一番の要因は、Engine Mount 3 Z(T3) direction、次がEngine Mount 2 Z(T3) directionです。Altair Simulation > HyperGraph 2D > Graphical User Interface > HyperGraph 2D Menus > NVH Menu > Transfer Path Analysis Utilityで、その他の可視化オプションの詳細を見ることができます。


    図 13. 40.0 Hz~80.0 Hzの周波数範囲における一番の要因
  13. 特定の問題周波数について支配的な経路が特定されたら、Studyタブを使って、支配的な経路から寄与を除外することで、問題の周波数において応答を低くしてどれだけ向上させることができるかを考察できます。
    例: 図 14 40.0 Hz~80.0 Hzの一番の要因であるEngine Mount 3 Y(T3) Directionが50%低減させることで、Total Responseがどれだけ変化するかを示しています。


    図 14. 一番の要因の経路から要因を低減させる効果
    注意:
    これらの結果は注意深く解釈する必要があります。というのも、この応答の変化は、特定経路の寄与の数学的な低減に基づいているものの、特定経路の寄与を低減するために構造に変化を加えると、その構造の変化は構造のモードを変えてしまい、それが同じ荷重における構造の応答の変化をもたらすためです。いずれにせよ、モデルを変更してそれを実行するための時間を投資する前に、Studyを使って特定の経路を考察し、どれだけの潜在的なメリットがあるかを知ることができます。