RD-E:4500 マルチドメイン

全体モデルをメインドメインとサブドメインに分割し、それぞれをその時間ステップで解きます。新しいマルチドメイン単一ファイル入力フォーマットではサブドメイン定義を/SUBDOMAINキーワードで行います。

マルチドメインテクニックは、しばしばメッシュの細分化の相違などにより生ずる、1つのサブドメインの時間ステップに大きな不一致があるような大規模Radiossモデルのパフォーマンスを最適化することを目的としています。これは全体モデルをメインドメインと複数のサブドメインに分割することで可能になります。それぞれのドメインはそれぞれの時間ステップを用いて別のRadiossモデルとして計算されます。それらの間の力と運動量伝達は安定性の拘束を保証する別のプログラムで管理されます。この例題の狙いは、新しい“マルチドメイン単一入力フォーマット”をどのように用い、どのようにモデルを準備するかを示すことにあります。

ex45_multidomain
図 1.

使用されるオプションとキーワード

以下のキーワードのみ追加される必要があります:
  1. Starterのbumper_LL4_0000.rad/SUBDOMAIN
    /SUBDOMAINでStarterファイルにサブドメインを定義します(図 2)。

    ex45_fig2

    ex45_fig2A
    図 2. サブドメインパート
    注: /SUBDOMAIN内の“subdomain_title”はサブドメインEngineファイルroot_nameと同じにする必要があります。

    この例題では/SUBDOMAIN内の“subdomain_title”は“FINE_MESH”です。これにより、サブドメインのEngineは“FINE_MESH_0001.rad”となります。

  2. 両方のエンジンファイルに/RAD2RAD/ONが存在する必要があります:

    マルチドメインテクニックを用いるためには、マルチドメイン連成が確立できるように両方のEngineファイルに/RAD2RAD/ONが定義される必要があります。

ドメイン間の接触

サブドメインとメインドメイン間にタイド接触(/INTER/TYPE2)を定義する必要があります。この結合はマルチドメイン単一入力フォーマットに完全に適合し、Radioss Starter実行の間にドメイン間のカップリングリンクを自動的に生成します。

ex45_contact_between_domains
図 3.
この例題では、サブドメインシミュレーションの間にサブドメインはメインドメインに衝突しません。そこで、それぞれのドメインで2つの自己接触のみを定義します。サブドメインがシミュレーションの間メインドメインに衝突する場合は、以下の4つの接触インターフェースTYPE7を定義することを推奨します。
  • 2つの内部接触インターフェース(/INTER/TYPE7)、それぞれのインターフェースはそのドメインで取り扱われます:
    接触インターフェース1
    メインドメインの自己接触インターフェース
    接触インターフェース2
    サブドメインの自己接触インターフェース
  • サブドメインでのドメイン間の相互作用のための2つの接触インターフェース(/INTER/TYPE7) :
    接触インターフェース3
    サブフレーム / 車両の接触 – サブフレームがセカンダリ側
    接触インターフェース4
    車両 / サブフレームの接触 – サブフレームがメイン側

この場合、全ての接触が1つの接触(/INTER/TYPE7)で取り扱われた場合、モデルの全ての要素がサブドメインに衝突する可能性があり、モデルの全ての要素がサブドメインに複製されます。モデルが大きい場合、マルチドメインインターフェースが巨大になり得るため、RAD2RADのCPUコストが非常に高くなります。それ故、計算のパフォーマンスが非常に貧弱になります。この場合ワーニングのメッセージ“Multi-Domains interface is too big”がStarterにより出力されます。

入力ファイル

必要なモデルファイルのダウンロードについては、モデルファイルへのアクセスを参照してください。

モデル概要

バンパービームが剛な円柱(直径254 mm)に初速度5m/sで衝突します。バンパーの後ろのクラッシュボックスは、x方向の併進を除いて全て拘束されます。そのピラーは全ての方向に拘束されます。

単位: mm、ms、Kg、N、 GPa

ピラーは全ての方向に拘束されます。

ex45_problem_description
図 4. 問題の詳細

モデリング手法

より正確な結果を得るためには、興味のある範囲に細かいメッシュを用います(例えば変形の大きい位置)。この例題では、バンパーが大きく変形する衝撃を受けるエリア(赤でハイライトされた部分)が選ばれました。細かいメッシュのサイズは約2 mmであり、残りのパートのメッシュサイズは約7 mmです。細かいメッシュのパートはモデル全体のほぼ50%を表す18370個のシェル要素を持ちます。陽解法解析では時間ステップはこの細かいメッシュでコントロールされます。この計算のパフォーマンスを改善するために、この計算は通常古典的なマススケーリング(/DT/NODA/CST)で取り扱われます。マルチドメインテクニックを用いることにより、細かいメッシュのパートに小さな時間ステップを、粗いメッシュのパートに大きな時間ステップを用いることが可能になります。

マルチドメインテクニックを用いるには2つの異なった方法があります。第1の(古い)方法は、ユーザーがそれぞれのドメインに分離されたStarterとEngineファイルを作成し、ドメイン間の結合に/LINKキーワードを定義する方法です。

Radioss v11.0.220で、マルチドメイン単一入力フォーマットという新しい機能が導入されました。キーワード/SUBDOMAINを用いてパートをこの中に入れて新しいサブドメインに異なる時間ステップを用いることができるようになり、特定の時間ステップのEngineファイルを生成します。Radiossは自動的にサブドメインと2つのドメインの間の結合のリンクの情報を生成します。

結果

マルチドメインのパフォーマンスを示すため、以下の2つのテストが行われます:
  • 試験1:単一ドメイン - 自由DTコントロール
  • 試験2:マルチドメイン - 自由DTコントロール
表 1. 全計算時間の比較
テスト 単一ドメイン(1)自由DTコントロール マルチドメイン (2)
マスタードメイン自由DTコントロール サブドメイン自由DTコントロール
CPU 1 1 1
時間ステップ [ms] 2E-04 8E-04 2E-04
CPU時間 [s] 5.93E+03 0.67E+03 2.64E+03
経過時間 [s] 5.9E+03 3.3E+03
テスト1では、時間ステップは細かいメッシュのパートでコントロールされます。小さな時間ステップを避けるために、マルチドメインアプローチを用いることができました(テスト2)。メインドメイン(粗いメッシュのパート)の時間ステップはおよそ8e-4 ms でサブドメイン(細かいメッシュのパート)の時間ステップはおよそ2e-4 msです。全計算時間は 3.3e-3秒のみです(テスト1よりもほぼ2倍速くなっています)。 図 5 は、テスト1とテスト2で同じ破壊挙動になることを示しています。 図 6図 7は、テスト1と2で厳密に同じ結果を示しています。したがって、テスト2はテスト1より速く、同じ結果をもたらしています。

ex45_failure_of_crashbox
図 5. 2つのテストのクラッシュボックスの破壊

ex45_impactor_force
図 6. 2つのテストのインパクター力

ex45_internal_energy
図 7. 2つのテストの内部エネルギー

マルチドメインを用いる時、そのパフォーマンスは、大きなモデルまたは細かいメッシュのパートがモデル全体の30%以下(今回の50%は多いです)の場合、より顕著になります。

Radiossドメインは順次取り扱われるため、同時には1つのRadiossプロセスだけが実行されることになります。全てのCPUプロセスは自動的に実行中のプロセスに割り当てられ、他はCPUを消費しないアイドルモードになります。

ex45_rad2rad_diagram
図 8. RAD2RADマルチ時間ステップ法

まとめ

マルチドメインアプローチを用いることにより、高い品質の結果を保ちながら計算時間を顕著に減少させることができます。

新しい単一入力ファイルフォーマットはマルチドメインを、前のバージョンのセットアッププロセスと比べて、よりユーザーフレンドリーにしています。