線形座屈解析

有限要素解析における線形座屈問題を解析するには、まず構造に対し、参照レベルの荷重 f r e f を適用します。

次に、標準の線形静解析を実行し、 f r e f に対応する幾何剛性マトリックス K σ を作成するために必要な応力を計算します。続いて、固有値問題を解くことで、座屈荷重を計算します:(1)
( Kλ K σ )A=0

ここで、 K は構造の剛性マトリックスであり、 λ は参照荷重に対する乗数です。通常、この固有値問題の解は n 個の固有値 λ となります。 n は自由度の数を表わします(実際には一部の固有値のみが計算されるのが普通です)。ベクトル A は、固有値に対応する固有ベクトルです。

固有値問題の解析には、Lanczos法と呼ばれるマトリックス法が使用されます。すべての固有値が必要になるわけではありません。通常は、座屈解析に対し、いくつかの最小固有値のみが計算されます。

最小固有値 λ α は、座屈に関連付けられます。座屈(臨界)荷重は次のとおりです:(2)
f α = λ α f r e f

f r e f が初期荷重の付与された構造に適用され、参照線形静的荷重ケースのSTATSUBPRELOADが非線形準-静的解析を指している場合、座屈固有値問題内の剛性マトリックス K は、参照線形静的荷重ケース内で使用される初期応力が付与された剛性マトリックスとなります。したがって、座屈荷重 f σ は、初期荷重が付与されていない構造ではなく、付与されている構造と解釈されます。

入力

線形座屈解析を実行するには、EIGRLバルクデータエントリを指定する必要があります。これは、抽出するモード数を、このエントリで定義しているためです。EIGRLカードは、サブケース情報セクションにあるSUBCASE内のMETHODステートメントで参照する必要があります。また、STATSUBカードを使用して、適切な参照静荷重 f r e f SUBCASEを参照する必要があります。STATSUBは、慣性リリーフを使用しているサブケースを参照することができません。

座屈解析では、ゼロ次元要素、MPCRBE3、およびCBUSH要素は無視されます。これらの要素を座屈解析に使用することもできますが、幾何剛性マトリックス K σ に対して、これらの要素が影響を与えることはありません。デフォルトでは、幾何剛性マトリックスに対する剛体要素の寄与は考慮されません。幾何剛性マトリックスに対する剛体要素の寄与を含めるには、バルクデータエントリセクションにPARAM,KGRGD,YESを追加する必要があります。

線形座屈についての幾何剛性マトリックス K G 計算は、TEMP(LOAD)またはTEMP(MAT)を介して更新される温度依存の材料を考慮します。

さらに、EXCLUDEサブケース情報エントリを介して、幾何剛性マトリックスに対する他の要素の寄与を含めないよう決定し、構造のどの部分が座屈について解析されるかを効果的に制御することも可能です。除外される特性は、幾何剛性マトリックスからのみ削除され、弾性境界条件での座屈解析の結果となります。これは除外される特性はなお座屈モードの移動を表示することになります。

座屈解析は、参照静荷重サブケースで慣性リリーフを使用している場合は実行できません。そのような場合は、剛性マトリックスは半正定で、座屈固有値解析は特異な結果で終わります。

線形座屈とオフセット要素

一部の1次元要素とシェル要素はオフセットを用いて要素剛性要素節点で決められた位置から“シフト”させることができます。例えば、シェル要素では要素節点で定義された平面からZOFFSでオフセットすることができます。この場合、全ての他の情報、例えば材料マトリクスや応力を計算するファイバー位置はオフセットされた参照面で与えられます。同様に、シェル要素力などのシェルの結果はオフセットされた参照面で出力されます。

オフセットは要素マトリックス (剛性、質量、幾何剛性)と、それぞれの要素荷重 (例えば重力)に作用します。このように、オフセットの原理は線形座屈を含む、全てのタイプの解析と最適化に用いることができます。しかしながら、結果の解釈には注意が必要となります。オフセットを使用しない場合、標準的な単純構造は臨界荷重で“突然”分岐したり、不安定になったりします。一方、オフセットありの場合はゆるやかに安定性が失われるため、漸近的に制限荷重に到達します(下の図 1(b)を参照):


図 1.
一般的に、オフセットのある構造では限界荷重に達する前に過剰な変形を引き起こす可能性があります。
注: より複雑な構造、たとえばフレームや曲げモーメントを受ける構造では、要素カードに ZOFFSがない場合でも最大荷重で座屈することに注意が必要です。

また、完全な非線形アプローチでは、更なる不安定ポイントがその限界荷重経路上に存在し得ます。