信頼性ベースの設計最適化

信頼性ベースの設計最適化(RBDO)は、不確定要素を考慮した最適設計を提供するために使用可能な最適化手法です。

最終設計の精確な信頼性評価を保持しつつRBDO問題を効率的に解くために、OptiStructには2つのフェーズから成るアプローチが実装されています。ユーザー定義の信頼性の要件に基づいて、設計変数、制約条件および目標の信頼性がテストされます。

RBDO問題では、決定論的設計変数、ランダム設計変数(ランダム制御因子)、およびランダムパラメータ(ノイズ因子)の3つの変数を選択できます。設計における制約条件と目標は、決定論的(平均)値またはパーセンタイル値として指定することが可能です。

インプリメンテーション

信頼性ベースの設計最適化(RBDO)は元来の問題としては数学的にはネスト化された2レベル構造で、実際の工学問題では計算に時間がかかります。

計算の困難を克服するために、文献ではさまざまな定式化が提案されています。これらの中には、ネスト化された問題を非連成にするSORA(sequential optimization and reliability assessment)があります。SLA(single loop approach)はさらに効率が向上しており、信頼性解析が最適化問題の一部として統合されています。しかし、SLA法であっても、多くの信頼性制約が関与する実際の工学問題では、計算コストが非常に高くなる可能性があります。現在は、SLAの強化バージョンが実装されており、このバージョンでは最初のフェーズが基準設計値での近似に基づいています。最初の反復フェーズが収束すると、プロセスは、それぞれの最小性能目標ポイント(MPTP)で信頼性の制約の近似が行われる2番目のフェーズに移行します。提案された方法の最初のフェーズは、決定論的最適化と同様に効率的です。信頼性評価の精度は2番目のフェーズで保証されます。したがって、最終設計の正確な信頼性評価を保持しつつ、RBDO問題をより効率的に解くことができます。提案された2フェーズのアプローチでは、同等のソリューション品質に達する一方で、有限要素解析が少なくて済むことが、例によって示されています。 1

RBDO問題を効率的に解析するために、2フェーズ1ループアプローチが導入されました。信頼性解析は、1回の最適化反復では十分に行われません。信頼性解析は目的最適化プロセスと共に進展します。最適化が収束すると、信頼性解析も収束し、かなり正確な信頼性解析結果が得られます。
注: 中間での反復の信頼性解析結果は正確とは限りません。

変数

OptiStructで構造設計空間を定義するために使用できる設計変数およびパラメータは、次のとおりです:

ランダム設計変数

ランダム設計変数は、DESVARバルクデータエントリでRAND継続行によって定義されます。さまざまなランダム分布タイプを選択でき、それに従ってパラメータが定義されます。RBDOプロセスでは、設計は、信頼性解析時またはロバスト性解析時(あるいはその両方)に、指定された分布に基づいて最適性を満たす必要があります。また、荷重は設計変数としてDVPREL1およびDVPREL2バルクデータエントリを用いて選択することができます。

ランダムパラメータ

ランダムパラメータの定義はランダム設計変数の場合と似ており、RANP定義を使用します。ただし、重要な違いがあり、ランダム変数の平均値は設計の改善のために変更されますが、ランダムパラメータの平均値は変わりません。典型的な例を挙げると、製造誤差の理由からシートメタルパートの板厚にランダム変数を使用できます。また、材料のヤング率も、差異を表す場合には主としてランダムパラメータとなります。

決定論的設計変数
決定論的設計変数は、OptiStructの最適化実行で使用される標準の設計変数です。
注: ランダム分布の偏差の理由から、設計領域の定義には注意が必要です。たとえば、設計変数値が正数専用の場合、その下限値を n * δ より低く定義することはできません。ここで、 δ は変数の標準偏差であり、nは一定の乗数です(値n=6を推奨)。

目標

OptiStructでは次の種類の設計目標を使用できます:

パーセンタイル値(RBDO)
最小または最大パーセンタイルに基づく目的関数は、DESOBJサブケース情報エントリで定義できます。必要なパラメータを定義するためにMINP/MAXPオプションおよびPROB 引数を使用できます。


図 1. パーセンタイル値に基づく目標を表す図
パーセンタイル値に基づく目標は次のように定義されます:(1) min [ P r ( f ( x ) ) ]
または(2) max [ P r ( f ( x ) ) ]

ここで、 f ( x ) は目的関数であり、 r は確率水準です(たとえば、95%)。右または左のパーセンタイル値を使用可能です。MINPは右のパーセンタイル値を最小化し、MAXPは左のパーセンタイル値を最大化します。

決定論的(平均)値
決定論的値に基づく目標は、OptiStructの最適化実行で使用される標準の目標です。平均値に基づく目標は、次のように定義されます:(3) min [ f ( x ) ]
または(4) max [ f ( x ) ]

ここで、 f ( x ) は目的関数です。

制約条件

OptiStructでは次の種類の設計制約条件を使用できます:

パーセンタイル値(RBDO)

ある制約条件がその限界を満たす確率は、事前定義された信頼性値より低くならないようにしてください。信頼性値は、DCONSTRバルクデータエントリのPROBフィールドによって定義されます。

信頼性に基づく制約条件は、次のように定義されます:(5) P ( c ( x ) U B ) r (6) P ( c ( x ) L B ) r

ここで、 c ( x ) は制約条件値であり、UBは制約条件の上限、LBは制約条件の下限、 r は確率水準です(たとえば、95%)。

P ( c ( x ) U B ) r という制約条件の場合、 L B の右パーセンタイル値は、上限UB以下になるよう強制されます。 P ( c ( x ) L B ) r という制約条件の場合、 c ( x ) の左パーセンタイル値は、下限LB以上になるよう強制されます。

決定論的(平均)値
決定論的値に基づく制約条件は、OptiStructの最適化実行で使用される標準の制約条件定義です。平均値に基づく制約条件は、次のように定義されます:(7) c ( x ) U B (8) c ( x ) L B

ここで、 c ( x ) は制約条件値であり、UBは制約条件の上限、LBは制約条件の下限です。

設計変数としてランダム変数の平均を使用した問題(Yi他2008)。

2つのランダム設計変数を使用した次の数理モデルを考えます:(9) min C ( v X ) = v X 1 + v X 2 (10) s.t.     P f ( G i ( X )0 )Φ( β i t )
ここで、 i = 1 , 2 , 3 .(11) 0 v X j 10

ここで、 j = 1 , 2 です。

ここで、 v X j はランダム変数 X および
  • G 1 ( X )= X 1 2 X 2 /201
  • G 2 ( X )= ( X 1 + X 2 5 ) 2 /30+ ( X 1 X 2 12 ) 2 /1201
  • G 3 ( X )=80/( X 1 2 +8 X 2 +5 )1
β i t = 2.0 の平均値(2.28%の破損確率に対応)。 X 1 および X 2 は、標準偏差が0.6の5種類のランダム分布(正規、対数正規、ワイブル、Gumbel、および一様)に従います。初期設計は次のようになります:(12) v X 0 =( 5.0,5.0 )

この例の結果を表 1にまとめます。2フェーズのアプローチでは、最初のフェーズで、各反復の1つの関数評価によって必要なすべての応答値を生成できます(性能関数はすべて同じポイントで評価されます)。したがって、関数評価の総数は、2番目のフェーズでの評価に比べてずっと少なくなります。各列の一番下の行の値(7.268 (3.609, 3.659)など)は、最終的な目的関数と最適設計です。

OptiStructに実装されている2フェーズのアプローチがSAPよりはるかに効率的であることは明らかです。この例で、ランダム変数の分布タイプが2フェーズのアプローチの計算効率に与える影響はごくわずかであるのに対し、SAPの性能は分布タイプが異なると大きく変わります。2フェーズのアプローチでは、5つすべての分布タイプのうちGumbel(関数評価の数がほかのタイプよりやや少ない)以外では同様の計算負荷がかかります。Gumbel分布の場合、SAPでは正規分布での計算負荷の1.6倍の負荷がかかります。

一様分布の場合、SAPの結果(すなわち、6.869 (3.521,3.348))は、モンテカルロシミュレーションで評価すると、制約にわずかに違反することに注意してください。2フェーズのアプローチでは、実現可能な設計(7.106 (3.597,3.509))となります。ただし、2フェーズのアプローチでは、ワイブル分布で同じ問題が生じます。最終設計(7.549 (3.682,3.866))は、最適設計に近いものの、制約にわずかに違反しています。この精度の問題は、確率制約評価におけるX空間とU空間の変換の高非線形と、一次信頼性理論の近似誤差によってもたらされます。これは、一次信頼性理論に基づくシングルループアプローチの一般的な弱点です。
表 1. Example 1での関数評価の数と最適化解
分布のタイプ   SAP (Yi et al.2008) Two-Phase Approach
正規分布 関数評価の数 54 Phase 1:7

Phase 2:15

Total:22

目標(変数) 7.268 (3.609,3.659) 7.268 (3.609,3.659)
対数正規分布 関数評価の数 54 Phase 1:7

Phase 2:15

Total: 22

目標(変数) 7.055 (3,556.3.499) 7.114 (3.571,3.544)
ワイブル分布 関数評価の数 42 Phase 1:7

Phase 2:15

Total: 22

目標(変数) 7.513 (3.668,3.845) 7.549 (3.682,3.866)
Gumbel分布 関数評価の数 90 Phase 1:7

Phase 2:12

Total: 19

目標(変数) 6.836 (3.491,3.345) 6.817 (3.497,3.320)
一様分布 関数評価の数 66 Phase 1:7

Phase 2:15

Total: 22

目標(変数) 6.869 (3.521,3.348) 7.106 (3.597,3.509)

OptiStruct RBDOのアプローチ(局所近似法に基づく)は、設計に含まれる不確定要素を考慮するための効率的なツールを提供します。ほとんどの問題では、このアプローチで妥当なソリューション精度が得られます。2フェーズのアプローチはSLA法から生じているため、SLAのソリューション精度に関する弱点の可能性も継承していることに注意してください。上記の例について考察する中で、不十分なソリューション精度が認められます。信頼性要件を確実に満たす必要がある場合は、正確な信頼性解析が実行されなければなりません。また、近似法に基づくOptiStruct RBDOアプローチでは、感度が利用可能な保持された制約条件のみで、信頼性解析が実行されます。必要であれば、DSCREENバルクデータエントリを使ってスクリーニングの条件を調整することが可能です。

1 Zhou, M & Luo, Z (2017).A Two-Phase Approach based on Sequential Approximation for Reliability-based Design Optimization.